世界一の手術師が生んだ奇跡の技法「鍵穴手術」※戦いつづける力 第2章【書籍抜粋】

ヨーロッパ中の名手と言われる
医師のテクニックを貪欲に学ぶ

研修医として東京・飯田橋の東京警察病院や東大関連病院に勤務し、研修医1年目に世界初のファイバースコープを使った脳内視鏡手術を行い、その後、脳内視鏡と脳ファイバースコープを開発しました。研修医2年目で経鼻下垂体マイクロサージェリーを実施。それら脳内視鏡や1センチの筒から長い器具を使う経鼻手術の臨床経験が1980年の鍵穴手術研究のルーツとなりました。

研修医及び臨床医員として5年間勤務した後は、ドイツのベルリン自由大学スティグリッツクリニックヘ脳神経外科研究フェローとして2年間留学。ウィルヘルム・ウンバッハ教授をはじめ、ヨーロッパ中の名手と言われる医師の手術を見学し、最先端の脳外科手術のテクニックを貪欲に学びました。

その後、アメリカの名門メイヨー・クリニックヘ脳神経外科臨床・研究フェローとして渡米し、当時全米トップのコーリン・マカーティ教授、ソラルフ・サント教授をはじめとして、のちに世界脳神経外科学会連盟の会長を務めたエドワード・ローズ教授などアメリカの名医と呼ばれる医師たちから3年間臨床を学び、徹底的に鍛えられました。

顕微鏡を覗きながら、
片足つま先立ちでの作業を猛特訓

欧米の最先端医療の現場で5年間の研鑽を積んだ後、1978年に帰国。いったん母校に戻って東京大学医学部附属病院脳神経外科助手を2年余り務め、1980年からは、東京・秋葉原にある名門・三井記念病院脳神経外科部長として、頭蓋底の鍵穴手術法を開発・確立するに至りました。

顕微鏡下での超精密手術では、10~20センチの長さの器具を、10~20倍に拡大した状態の術野を見ながら、手を震わせずに正確に操作できなければなりません。これはもう、何度も何度も顕微鏡を覗きながら練習を繰り返して、体全体で覚えるしかありません。

また、鍵穴手術では、頭部にあけた小指の先ほどの穴から、深さ7センチ程度の患部の手術を行うわけです。

私がその練習に使ったのは、直径2センチのプラスチック製の注射器でした。その細い筒を10センチの長さに切り、底に手術用の薄い手袋をかぶせて10ミリほどの切れ目を入れ、それを術部に見立てて、筒の内側から維い合わせる練習を何度も何度も繰り返したのです。

その結果、ミクロン単位の精密な作業を、正確に行えるようになったのです。

しかも手術中は、両手で器具を操作しながら、足元のペダルで、顕微鏡の拡大率、焦点を合わせるだけでなくパワードリルペダルやバイボーラ電気凝固ペダルといった複数の機器のペダルを、自在に操作する必要があります。

もともと大学時代からジャズバンドでドラムを叩いていたので、両手両足を自在に動かすことができたのですが、さらに顕微鏡を覗きながら片足つま先立ちで正確な手術操作ができるように、バランス感覚を徹底的に鍛えました。片足立ちでどんな作業も正確にできるように、とにかく訓練を繰り返したのです。

その結果、10時間以上に及ぶ手術でも、集中力を途切れさせることなく、ミクロン単位の超精密手術ができるようになったのです。

闘い続ける力 第2章
1980年、三井記念病院脳神経外科部長就任(37歳)

一流の脳神経外科医に必要な4つのもの

一流の外科医になるためには、4つのものが必要です。

1つ目が努力、
2つ目はよき師匠、
3つ目が才能、
4つ目が運です。

世界中の名医を訪ねて勉強し、人の2倍も3倍も血のにじむような努力をしました。この人並み以上のたゆまぬ努力がなければ、どんなに才能があっても、運がよくても、花を開かせることはできません。

私の場合は幸い生まれつき手先が器用で、記憶力も集中力もありました。

その結果、臨床の場で前人未到の実績を挙げることもできた。だからアメリカの有名大学から臨床教授として招聘され、今日のように成功することができた。これはもう、運もよかったというしかありません。

従来の脳外科手術と鍵穴手術の違い

鍵穴(キーホール)手術の名前には、その穴が最も璽要な鍵(キー)となる、という意味もこめられています。つまり私の鍵穴手術は、ターゲットを正確にねらってアプローチするターゲット・サージェリーともいえるわけですね。

MRIやCTといった医療機器の発展だけではなく、手術用ナビゲーションシステムなど新しい機器類の開発にも積極的に関わった結果、今では「ここだ」という開頭部分を的確に開けることができるようになっています。

次ページの図を見てください。

従来の脳外科手術と鍵穴手術の開頭の違いを簡略化した図です。

闘い続ける力 第2章

闘い続ける力 第2章

従来の手術はじょうご型(①) ですが、私は逆さじょうご(②) で小さな鍵穴から深部を広く手術するわけです。

そして、鍵穴手術では、横から見ると、頭蓋骨の内板の骨をより多く削ることで、脳を引かずに術部が見える状態を作ります(③)。それによって、大きな腫腸の摘出や脳の深部にある脳神経や脳血管、腫瘍の手術でも、最小限の開頭によって脳を圧迫することなく手術が行えるわけです。

第3~4章で述べる顔面けいれんや三叉神経痛の手術の場合、術野は5ミリですから、硬膜外の骨をプラス5ミリ削るだけです。だから開頭が1円玉大でOKなのです。

また、従来の脳外科手術では、頭皮をU型やC型に切開しますが、開頭部を小さくできるのなら、大きく皮膚切開を行う必要はありません。

そこで私は、頭皮を縦に切って広げる線状切開(右ページ下B)という方法を1981年に考案し、その長さも開頭部の大きさに合わせてだんだん短くしていきました。

これらの画期的なミニ開頭法によって患者さんの負担が大幅に減り、成功率99%で大きなリスクなし、という安全確実な手術が可能になったわけです。

1円玉大の開頭ですむので、
手術時間は1~2時間になった

手術用顕微鏡を使って脳神経や脳血管、脳腫瘍を扱う脳外科手術では、まず繊細な剥離と止血が不可欠です。

とにかく赤血球を出さない、きれいな手術をすること。出血すると脳や神経が汚れてダメージを受けるだけではなく、ミクロン単位の緻密な作業を行うべき術野が、はっきり見えなくなってしまいます。患者さんにとってリスクが大きいのです。

普通の脳外科医の手術映像を見ると、術野が赤く染まっています。しかし私の手術は真っ白で、術野が赤く染まることはありません。当然、脳血管も脳神経もよく見えます。これが超精密手術を成功させる必須条件なのです

次に、脳神経や脳血管をそっと丁寧に扱って、きれいに剥離・保存します。脳神経を傷つけずに脳血管を剥離するためには、ゴリゴリとした剥離は絶対にやってはいけません。出血のないきれいで繊細シャープな作業をすることが必須条件です。

また、顔面けいれんや三叉神経痛では神経を圧迫している小脳動脈ループ(カラー7ページ参照)は細い枝(穿通枝)を伴っているため、移動させるときに引っぱりすぎると障害を起こしてしまいます。穿通枝の血液循環が低下すると脳幹や小脳にダメージを与えてしまうこともあります。ですから、その細い血管(穿通枝)の一っひとつがどこにあるかをすべて正確に捕捉し、丁寧に扱うことが必須なのです。

しかも、すべての人の脳血管や脳神経が解剖学的に正常といわれるような位置にあるとは限りません。

たとえば、個人差と表現される程度のずれから、腫瘍や動脈硬化などによって位置が大きく異なる異常なケースもあります。実際の手術では、そのようなさまざまなケースに臨機応変に対応できなければなりません。

そして、実はここからが最も難しいところです。

顔面けいれんや三叉神経痛の手術では、神経の根元を圧迫している血管をそっと剥離して移動させ、テフロンテープで包んでそっと固定するという繊細な作業を、1本の吸引管と、私が開発した1本の細い棒状の道具“二番プローブ”だけで行います。この技術こそが、鍵穴で行う神経血管転置移動術の最大のポイントなのです。

従来、欧米や日本の他の病院で行われているスポンジをはさむ手術では、スポンジによる圧迫や癒着のため結果が不十分で再発も多いのです。絶対にはさんではいけません。

1円玉大の開頭で手術が行えるようになった結果、顔面けいれんや三叉神経痛の手術の場合、皮膚切開から頭を閉じるまでのスキンツースキンの手術時間は1時間から2時間です(手術室に入ってから出てくるまでは、事前の麻酔やボジション決めに時間がかかるため、およそ3~4時間程度)。しかも入院日数は3日~7日、約2週間で普通の生活に戻れます。

たとえ発症してから20~30年経っているという方でも、この手術によって症状をピタッと止めることができます。

闘い続ける力 第2章

世界一の医療水準を誇るアメリカの医療関係者から「神の手を持つ男」(The Last Hope)と称賛される脳外科医Dr.福島孝徳は、今年2018年で医師生活50年を迎えた。現在でもアメリカ、ヨーロッパ、北欧、南米、アジア、ロシア、エジプトなど世界20カ国以上を飛びまわり、高難度手術を年間600人以上行っている。

「絶対にあきらめない、成し遂げる」という強い不屈の心、闘いつづける力はどこから来るのか——。

世界一と称賛される奇跡の技法「鍵穴手術」について、また、患者さんからの感謝の声、愛弟子たちの秘話も満載。

「私のところには“Dr.福島でなければ治せない”という難しい腫瘍や巨大脳動脈瘤などの複雑な病気の患者さんが、最後の望みをもって来てくださいます。それが私にできる手術であるなら、どんな患者さんでも受け入れます。そして、いつも患者さんに言います。“私が手術するんだから、もう大丈夫”と」 (福島孝徳)

◎脳外科に人生を捧げた私のミッション
◎75歳の今でも、その日に行った手術の復讐は怠らない
◎なぜ私が世界や日本各地を飛びまわるのか
◎私の手術を見学したい若手医師を歓迎します
◎世界一の手術師が生んだ奇跡の技法「鍵穴手術」
◎1円玉大の穴をあけ、顕微鏡で手術する
◎鍵穴手術による治療「顔面けいれん」「三叉神経痛」
◎私の後を継ぐ「次世代の脳外科医たち」の声
◎日本で福島孝徳が手術を行う病院一覧

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2023年10月15日