鍵穴手術による治療<1>  ※戦いつづける力 第4章【書籍抜粋】

顔面に鋭い痛みが走るつらい病気、
三叉神経痛とは

三叉神経痛は顔面、口腔内に鋭い痛みが走る特異な疾患です。食事や会話、洗顔、歯磨きなど、日常の普通の動作で激痛が生ずるため、毎日の生活に大変な苦痛が伴うのです。この症状は動脈硬化で血管がのびて、たわんでくる40代以上の人に多く、右か左かどちらかの顔面に、発作性の鋭い痛みが走る大変つらい病気です。

まれに左右両方が痛む人もいますが、ほとんどはどちらか片側(多いのは左側)に起こります。慢性進行性の病気であるため、悪化すると耐え難い激痛発作がひっきりなしに起こり、「こんなにつらいのなら死んだほうがまし」という人もいるくらいです。

激痛は24時間持続的に続くのではなく、発作的な痛みがたたみかけるように断続的に起こる、というのが特徴です。顔面を刺すような鋭い痛みを「千枚通しで刺すような」とか、「電気が走るような」、また、「雷が落ちるような」と表現する人もいますが、激しい痛みは、5秒から10秒、長くても数分で治まります。

あごから下唇、下唇から上唇、そして鼻にかけて、突き抜けるような痛みが走るために、歯の病気と勘違いして歯医者さんにかかる人も多く、歯を抜かれてしまう人も少なくありません。

鋭い痛みは、たとえば顔を洗ったり、歯を磨いたり、女性はお化粧をしたり、男性は髭を剃ったりするときに起こります。つまり何らかの刺激(トリガー)によって誘発されることが多く、ひどいときには風が吹いただけで痛みが走る、という人もいるほどです。

三叉神経痛の患者さんは、ご飯を食べようと噛んだ瞬間に痛みが走り、痛くてご飯が食べられない、あるいはしゃべっても激痛ということが多く、栄養失調で病院に担ぎ込まれる人もいます。

以上の様に、三叉神経痛は、

①左右どちらかの顔面に鋭い激痛が走る。
②5秒から10秒、長くても数分の痛み発作が繰り返し起こる。
③何かの誘因があって痛みが起こる。

というのが特徴です。

虫歯やヘルペスなどの病気と誤診されるケースが多い

一般に顔面が痛む病気は3種類に分けられています。

三叉神経痛は第3章で説明した顔面けいれんとは異なり、外からは見えにくいため、内科医や歯科医の中には、歯槽膿漏や虫歯、副鼻腔炎、蓄膿症、ヘルペスなどの病気と誤診するケースも少なくないようです。しかし、これらの病気が原因で痛みが発生している場合は、誘因がなく、24時間持続的に痛んだり、しびれも合併します。

三叉神経痛にもその進行度や痛み方の違いによって、診断が難しいケースもあります。クラスⅠは右ページのような症状が典型的ですが、クラスⅡは持続的な痛みがあったり、痛む場所が違う、誘因がないのに痛むというケースです。

なかにはクラスⅢのように、持続的な鈍痛や、焼け火箸を当てられたような痛み、24時間痛む場合もありますが、脳外科の専門医なら、電話で話を聞くだけでも診断できます。

激痛が、何かのきっかけがあって起こる場合や、痛みが持続的ではなく断続的に襲ってくるというような場合は、内科や歯科にかかるのではなく、経験のある脳外科の専門医の診察を受けるようにしてください。

動脈や静脈が三叉神経を圧迫して
強い痛みを引き起こす

三叉神経痛を正しく理解していただくために、ここでも図を使いながら、少し解剖学的な説明を加えておきましょう。

人間の体にさまざまな情報を伝える神経系には、中枢神経系と末梢神経系の2つがあります。中枢神経系が脳と脊髄で、末梢神経系は中枢神経系と全身の各器官をつないでいます。ですから末梢神経系には、脊髄から出る脊髄神経と脳から出る脳神経の2種類があるわけです。

脳神経は左右に12本あります。目や耳や鼻などの感覚器官でキャッチした情報を直接脳に伝え、また脳からの指令を各器官に伝える役割を担っており、12対の神経からなっています。

脳を下から見た図-脳神経には左に12本、右に12本あって対になっている

上の図を見てください。

三叉神経痛はその名のとおり三叉神経が動脈ループで圧迫され刺激されて顔面が痛む病気です。三叉神経は、12対の脳神経の中では最も太く、頭蓋骨の小さな穴を通って中頭蓋底で3つに分かれます。三叉という名前はそこからきており、三叉神経は顔全体の皮膚感覚を脳に伝える役割を担っています。

上から、第1枝の前頭神経(前額部おでこ)、第2枝の上顎神経(頬)、第3枝の下顎神経(あご)と3つに分かれ、顔面の感覚を脳に伝えます。たとえば、何かに触れているとか、痛い、冷たい、あたたかいという感覚は、三叉神経が脳に伝えますが、三叉神経が司るのは顔面だけで、髪の毛のある部分は、頸部脊髄神経になります。

三叉神経痛は、この三叉神経が橋上部で脳幹に入る根本の部分が、動脈硬化が原因でたわんで蛇行してループ状になった血管(上小脳動脈)によって圧迫されることによって(カラー7ページ参照)、顔面に激しい痛みが起こる病気です。

三叉神経根に上脳動脈ループが食い込み圧迫している顕微鏡写真

特に年齢とともに脳血管の動脈硬化が起こりやすくなるために発症しやすくなり、熟年以降に多いのが特徴です。

また、まれに脳腫瘍・脳動脈奇形・脳動脈瘤などによって三叉神経が圧迫されているケースもありますので、CTやMRI(MRA・磁気共鳴血管画像)などの検査が行われます。


世界一の医療水準を誇るアメリカの医療関係者から「神の手を持つ男」(The Last Hope)と称賛される脳外科医Dr.福島孝徳は、今年2018年で医師生活50年を迎えた。現在でもアメリカ、ヨーロッパ、北欧、南米、アジア、ロシア、エジプトなど世界20カ国以上を飛びまわり、高難度手術を年間600人以上行っている。

「絶対にあきらめない、成し遂げる」という強い不屈の心、闘いつづける力はどこから来るのか——。

世界一と称賛される奇跡の技法「鍵穴手術」について、また、患者さんからの感謝の声、愛弟子たちの秘話も満載。

「私のところには“Dr.福島でなければ治せない”という難しい腫瘍や巨大脳動脈瘤などの複雑な病気の患者さんが、最後の望みをもって来てくださいます。それが私にできる手術であるなら、どんな患者さんでも受け入れます。そして、いつも患者さんに言います。“私が手術するんだから、もう大丈夫”と」 (福島孝徳)

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2025年2月15日