神の手のすすめる脳ドック・がんドック  ※福島孝徳とチームプロトン 第7章【書籍抜粋】

各種ドックの必要性

厚生労働省の2008年人口動態統計の椎計によれば、日本の年間死亡者数は114万3千人。そのうち、死亡原因の第1位ががんで34万3千人、2位の心疾患が18万4000人、3位の脳血管疾患が12万6千人と続いている。この3大疾患だけで、死亡原因の約6割を占めることになる。

もちろん、国もこの事態にただ手をこまねいているばかりではない。各疾患の早期発見、早期治療のために健診を推進、とくにがんについては「がん検診50%キャンペーン」を行うなど力を入れてはいるが、いまだに受診率は低いままというのが現状だ。

そんな中でDr.福島は、脳ドックをはじめとする各ドックの重要性について、誰よりも早く繰り返し提唱してきた。

「長年脳疾患に接してきた中で、もう少し早ければ完治できたのにと、何度も何度も悔しい思いをしてきました。すべて、早期発見できていないのが原因です。早期発見のためには、ドックが必須です。もちろん、脳疾患だけではありません。脳ドックをはじめとして、がんドック、消化器ドック、循環器ドック、婦人科ドックなど、30歳を過ぎたら、毎年いくつかずつ受けるようにして、それぞれ2、3年に1回は受けるようにしておいてほしい。

福島孝徳とチームプロトン 第7章

Dr.福島の脳ドック

脳ドックによる予防に勝るものはない。ことあるごとに、その話を力説してきたDr.福島。「脳ドックの異常検出率は、何と5%。100人に5人もの人に、異常が見つかります。これは、他の健診に比べて非常に高い数字です。脳腫瘍など、自覚症状が出る頃にはかなり大きくなっているものです。それを5mm以下の状態で発見できれば、治療はずっと容易になります。あるいは脳動脈瘤があっても、破裂する前に発見できればくも膜下出血で危険な状態になるのを防ぐことができるのです。

脳疾患というと、高齢者というイメージがあるかもしれません。けれども、実は若い人にもかなり多い。子どもさんの場合には、残念なことに見つかったときにはほとんど手遅れということが多いのです。

ですから、私は赤ちゃんから高齢者まで、国民全員脳ドックを受けるべきだとお話しているのです」

脳ドックで見つかる脳の主な病気

●脳卒中

脳ドックにかかわる病の中で最も多くを占めるのが脳卒中。以前は、日本人の死亡原因の第1位だったが、年々その割合は低下。現在では、がん、心臓病についで第3位になっている。とはいえ、毎年50万人もの人が脳卒中で倒れているというのが現実だ。

脳卒中は、大きく3つのタイプに分けることができる。

ひとつめは脳梗塞。脳の血管が詰まることによって血液が流れなくなり、脳の細胞に酸素や栄養が届けられなくなる症状。これには、脳血栓と脳塞栓(のうそくせん)という2つの種類がある。

脳血栓というのは、脳の血管が動脈硬化を起こして狭くなるために、血液がつまってしまう状態をさす。そして脳塞栓(のうそくせん)は、体内のどこかにできた血栓が脳に飛んで、細い血管に詰まってしまう状態。いずれも夜中から夜明けにかけて起きやすく、手足の麻痺や言語障害などといった発作が前兆となる。小さな発作が起こるうちに治療を行えば、大きな発作を予防することができる。

脳ドックを受けると、MRI検査によって脳の中に小さな梗塞(こうそく)が見つかることは少なくない。定期的に検査をして対処することで、予防が可能になる。

そして、2つめのタイプは脳出血。動脈硬化や高血圧で脳の血管が脆くなり、血管が破れて脳内にたまることで、周囲の脳組織が破壊されてしまうという状態だ。とくに、出血の塊が5cm以上になると、かなり危険な状態になってくる。

3つめのタイプは、くも膜下出血。脳底部の脳動脈瘤が破裂し、くも膜と軟膜の間に出血する症状をさす。動脈瘤が破裂する前に発見して処置することで、破裂のリスクを回避することが可能だ。くも膜下出血の自覚症状は頭痛や嘔吐などがあるが、風邪や疲労のせいだと思い込んでしまう場合が少なくない。治療を受ければ約9割は助かる疾患なので、おかしいと思ったら専門病院で相談することを心がけたい。

●脳腫瘍

脳腫瘍は脳卒中ほど多くないとはいえ、それでも年間2万人が発症している重大な疾患だ。悪性腫瘍(がん)と良性腫瘍があり、その比率はおよそ半々になっている。

良性腫瘍は手術のみで治癒を目指すことができるが、悪性腫瘍の場合には手術だけでは対応が難しく、放射線治療を組み合わせて行うのが通例だ。中でも、脳腫瘍の35%を占めるのが、悪性の神経膠腫(グリオーマ)。脳の中に根を張るように広がるため、手術だけで取り去るのはかなり困難になる。

脳腫瘍の前兆としてよくあるのは、めまい、耳嗚り、ふらつきなど。こうした症状が頻繁に起こるようになったら、専門病院で受診しておいたほうが安心だ。小さなうちに見つけることができれば、全治の可能性はぐっと高くなる。

また、血圧もひとつの目安になる。血圧が高いと血管が破れやすいために、危険な状態になりやすい。くも膜下出血でも、血圧が低い人のほうが助かる可能性は高いのだ。 いずれにしても脳腫瘍の場合も、早期発見、早期に手術による摘出ができれば、治る可能性はぐっと高まる。

Dr.笹沼のがんドック

1981年にトップの座を奪って以来、日本人の死亡原因で不動の第1位を占めているのが、がん。しかも、その数は年々増えている。今や、男性の2人に1人、女性の3人に1人は生涯のうちにがんにかかることになるという。体に異常を感じなくとも、がんは誰にとっても他人事ではない、いつかかってもおかしくはない病なのだ。

ところが、厄介なことには自覚症状の現れにくいものが多い。自分でおかしいと思って医療機関を訪れたときには、すでにかなり進行していて治療が難しくなっているというのが現状だと言うのは、東京クリニックの笹沼。

「最近では、20代、30代のがんもどんどん増えてきています。『人間ドックなら毎年受けているから大丈夫』とおっしゃる方が多いのですが、人間ドックは、生活習慣病の発見の予防に重きが置かれているので、他の疾患まではなかなか発見できないことが多いのです。がんが発見された方で、『毎年人間ドックを受けているのに、なぜ……』とおっしゃる方を見るたびに、心が痛みます。

早期発見、早期治療のためには、やはりがんドックが必要。東京クリニックではMRI-CTも導入し、がんの早期発見に力を入れています。また、郡山の総合南東北病院では、最新機器PET-CTによる極めて精度の高いがんドックを受けることも可能ですので、こちらも合わせておすすめしています」

MRI、PET、PET-CT検査

●MRI検査

MRIはMagnet Resonance Imagingの略。人間には、磁場をかけるとごく微量の電波を発生するという特性がある。この微弱な電波をとらえて、画像にして表す方法がMRI。脳の検査方法として有名だが、そのほか、脊髄、骨軟部、骨髄のがんの診断や、子宮がん、卵巣がんなどの検診にも有効だ。

体への負担は少ないが、磁場を発生させる際に大きな音がする。

●CT検査

CTはComputed Tomographyの略で、コンピュータ断層撮影のこと。体に360度の角度からX線を照射して、得られた体内の情報をコンピュータで解析、体内の臓器の状態を立体的に確認する検査方法だ。

肺や肝臓、膵臓、卵巣などの検査に用いられ、とくに肺がんの早期発見には非常な効果を発揮する。

造影剤を体内に注射してから撮影することで、血管の状態、臓器の血流状態などがわかり、より正確な診断がしやすくなる。

●PET検査

PETとは、Positron Emission Tomography(陽電子放射断層撮影)の略。CTのような形をしたPETカメラを使って、全身や心臓、脳などの病気の原因や病巣、病状を的確に診断できる最新の検査方法だ。

CTやMRIが組織を画像として映すものであったのに比べて、PETは細胞の代謝の状態を画像にして表す検査方法。これによって、従来の方法では発見が難しかったがんも発見する可能性が飛躍的に増え、その状態を適切に把握できるようになった。

PET検査の仕組みは、がん細胞が正常な細胞に比べて、約3~8倍のブドウ糖を消費するという特質を生かしたもの。検査に先駆けて、ブドウ糖と陽電子を放出する部室を合成した薬剤を静脈に注射する。すると、ブドウ糖ががん細胞のところに大量に集まってくる。一方、陽電子はガンマ線を放つという特徴を持っている。そのため、ブドウ糖が多く集まったがん細胞の部分をスキャンすると、陽電子が光って見えるのだ。

PET検査には、これまでの検査にはない優れた特徴がいくつもある。

まず、がんの早期発見が可能なこと。多くのがん細胞は10年から20年という長い期間をかけてゆっくりと成長。その後急激に成長の速度を速めるという特性がある。

PET検査では、数ミリから10ミリ程度とこれまでの検査では発見されにくかった小さながんも見つけられることが多く、早期治療につながる。

また、がん細胞の大きさや形ばかりではなく、その状態もわかるために、がん細胞の性質も推測することができる。つまり、がんの診断が可能であり、早くから治療方法などについて検討することができる。PET検査で見つけやすいがんには、脳腫瘍、頭頸部がん、肺がん、乳がん、食道がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、子宮がん、卵巣がん、悪性リンパ腫などがある。

一方、胃がん、腎臓がん、尿管がん、膀胱がん、肝細胞がん、胆道がん、白血病、前立腺がんなどは比較的見つけにくいが、転移や再発に対しては有効なことも多い。

●PET-CT検査

こうした優れた特性を持つPET検査ではあるが、撮影方法の異なるCT検査と組み合わせて行うことで、さらに正確な状態を把握することができる。けれども、別々に撮った画像では時間や状況の変化などもあり、判断が難しいこともあった。 そこで、がんにおける最新の検査方法として注目を集めているのが、PET-CT。PETとCTの機能が一体となり、一度の検査で両方の画像を得ることができる。このため、がんの部位や範囲などを、より明確に診断することが可能になった。


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2024年10月20日