人間・福島孝徳<9><10>   ※ラストホープ2章【書籍抜粋】

9.福島孝徳の今

ヘッドハントを受けてアメリカに行った後の話をしましょう。

日本にいた私を強烈にスカウトしてきた南カリフォルニア大学医療センターでは、脳神経外科教授になりました。

一九九三年まで務めたのですが、その頃、ペンシルバニア医科大学から「メディカルカレッジの教授、頭蓋底のディレクターにするので来てほしい」と言われました。その時、カリフォルニアの仮免許だったので「正式なペンシルバニアの医師免許とグリーンカードを下さい」と言いました。すると、三ヵ月後に突然、「用意できたから来てください」と言われました。そこで、翌年にはこの誘いを受けて同大学のアルゲニー総合病院の脳神経科教授に就任。アルゲニー脳神経研究所頭蓋底手術センター所長も務めました。

その後、一九九八年からはカロライナ頭蓋底手術センター所長、同脳外科教授などを歴任していきました。

今、ノースカロライナの正式な免許をもらって開業を認めるという特別契約でデューク大学で働いて五年になります。現在の肩書きはというと、なんだか知らないうちにものすごく増えてしまっています。

デューク大学脳神経外科教授

ウエスト・ヴァージニア大学脳神経外科教授

カロライナ脳神経外科研究所・頭蓋底手術ディレクター

カロライナ聴覚疾患研究所共同所長

国際脳神経外科教育財団·共同責任者

スウェーデン・カロリンスカ研究所教授

ドイツ・フランクフルト大学教授

フランス・メディトレイニアン大学教授

フランス・マルセイユ大学教授

……………と、連なっていきます。あまり並べ立てても自慢話みたいになりますから、この辺にしておきましょう。

活動拠点のベースは、最初にもお話ししたとおりアメリカ東海岸のノースカロライナ州です。メインとなる活動はデューク大学、ノースカロライナ・ラーレイでの診察と手術、ウエスト・ヴァージニア大学になります。

デューク大学は古い体制を持った大学で、色々と難しいこともあります。ある日、脳神経外科の主任教授であるアラン・フリードマン先生が、私のところに来て「ここの脳外科を世界のトップにしてほしい」「私にあなたの技術を教えてほしい」と言ってきました。主任教授が日本人の私に頭を下げて教えてほしい、力を貸してほしいと言う情熱に胸を打たれました。彼はまだ四十代で主任教授になって、大学の古い体質と闘っています。私はできる限りの手助けをして、彼と一緒に頑張ろうと思っています。

肩書きばかり増やしたわけじゃあありませんから、それぞれの拠点でやるべき仕事はあります。もともとノースカロライナにじっとしていられるような状況ではないんです。数々の学会への出席、研究成果や手術実績についての論文作成と発表学生や研修医を相手にした指導、講義、講演・・・・・これら学術関連の仕事だけでも十分に忙しい。

日本へ行ったって、アメリカやヨーロッパから仕事が追いかけてきます。だからI君のような存在は本当に頼もしい。彼はそもそも医療機器メーカーの人間です。だから秘書みたいなことはしなくたっていいんですけれど、福島と会ったのが運のつき。何もかも、手伝ってもらっています。

やっぱり、脳神経外科医になってよかったと思います。佐野先生の弟子になって外国に行かせてもらって、ここまで育ててもらいました。

私の生きがいです。全然悔やみません。 私自身は、奔放に生きたいように自由にやってきた。だけど、やっぱり思います。結局は家族も含め、各国の様々な人たちの力で支えられている。こうした支えがあるから、好きな仕事にも熱中していられるんです。

10.一問一答 Dr.福島はこんなヒト

ここまでの内容で、福島孝徳という人が、どんな信条を持ち、どんな価値観で生きてきたのかは、大まかには伝わったのではないかと思うが、次に福島に答えてもらった連想ゲーム的な一問一答の模様をお伝えする。アットランダムに英単語を言い、それに自由に答えてもらった内容だ。

Passion(情熱)

私の人生そのものが。パッション。全身脳外科人生です。

Love(愛)

天職としての脳外科を愛しています。もちろん妻や子を愛していますが、妻には「あなたは脳外科と結婚した人よ」と言われたりします(苦笑)。

Luck(運)

人生は運で決まる。そう思ってます。

実は最初、心臓外科の医者になろうと思ってたんです。でも、東大闘争のあおりでなかなか希望を取ってくれない。そのうち、同級生だった堀君(現・東京女子医大教授)が「おい福島、脳外科はいいぞ」と言ったんです。これが人生を決めた運でしたね。

私は自分の性質がわかっていましたから、他の科のように常にチームプレイが求められるところよりも脳外科のように、「チームで動くけれども最後は執刀医の腕次第」というほうが自分に向いている。それに気づいたんです。

さらに言えば、そのおかげで佐野先生に出会うことができた。これまた最高の運です。

Happiness(幸福)

自分がやりたいと思うことを続けてきて、こんなにもうまくいっている。そのことに幸せを感じるし、日々神様に感謝しています。

Success(成功)

手術をして最高の結果が出ること。それが私にとっての唯一のサクセスです。

Failure(挫折)

これまで多くの手術に成功してきたけれども、それでもまだ二〇〇に一つはうまくいかない。そんな時は落ち込みます。無力さを嘆きます。

Growth(成長)

一日一日、少しでもいいから進歩したい。どうやったら自分の手術がもっと良くなるかをいつも考えてます。それをやめたら私の成長は止まってしまう。

Father(父)

宗教家としても哲学者としても、心から尊敬しています。

Mother(母)

父のことを尊敬していたけれど、私は母親っ子でした。とにかく今もって頭が上がりません(笑)。私が医者になった時、やんちゃだった私のせいでさんざん苦労をした母が「孝徳はよく医者になってくれた」と喜んでくれたんです。だから今まで頑張ってこられたんだと思います。

Coach(コーチ)

私にとってコーチ、先生というのは一人しかいません。佐野先生だけが私のコーチなんです。

Heaven(天国)

天国は絶対にある。そう信じてます。地獄もある。悪いことをしたなら絶対に地獄に堕ちる。もしも悪いことをした人が脳腫瘍で困っていたら?治しますよ、喜んで。その代わり、一発全治させた後でみっちり説教をして諭します(笑)。

God(神)

神様も絶対にいます。私はこれまで非常にリスクの高い手術でも成功してきた。それで人は「ゴッド・ハンド」とか呼ぶようになったけれど、私に神の手がはえているわけがない。

その代わりといったら変だけど、とにかく手術をする時はいつも「神様、助けてください」と祈っています。だから、私は「神の手を持った医者」なんじゃなくて、「神に祈っている医者」、「神に助けてもらっている医者」なんです。

どんな神様かって?まあ宗教上は神官の息子なわけだし神道ということになるかもしれない。でも、私には「私の神様」というのがいます。宗教的にどうのこうのじゃあなてね。ともかくキリストでもマホメットでもお釈迦様でもかまわないんです。神様はちゃんといて私たちを見ている。そう私は信じている。だから祈るんです。そのおかげでここまでこられたんだと感謝しています。

Reincarnation(生まれ変わったら)

もしも生まれ変わったら?美容整形外科の医者になりたい。女性は不思議です。十分きれいな人でも、さらにきれいになりたいと願っている。それを実現してあげられる存在になれたら、私も幸せを感じます。

脳神経外科は深刻な手術ばかり。しかも常にタイトロープ(綱渡り)です。手術中に、平気で予想外のことが起きます。ただ、大変なことだからこそ、それを乗り越えて仕上げることができた時には、他では経験できないくらいの喜びがある。大変だけれど、疲れないのはそういう理由なんだと思います。時には目が見えなくなった人を見えるようにすることだってできる。そんなミラクルを起こせるのは神様と脳外科医だけ。これは私にとって無上の喜びなんです。だから生まれ変わったら違う仕事を選ぶかもしれませんけれど、ミラクルを起こして人を喜ばせるような仕事に就くことは間違いないでしょうね。

Dream(夢)

第一に、患者さんに対して「手術のリスクは0%です」と胸を張って言えるようになること。第二に、今のところお手上げ状態の悪性腫瘍も治せるようになること。第三に、私の人生の九九%は脳外科に捧げてしまい、いろいろ寂しい思いもさせてきたけれど、やっぱり自分の家族が幸せになること。 以上の三つが私の夢です。


TBS「情熱大陸」、TBS特番「これが世界のブラックジャックだ!名医たちのカルテ」などで紹介。神の手を持つ男といわれる脳外科医福島孝徳の初の人物ルポ。

第1章 ブラック・ジャックと呼ばれて(“神の手”は持っていません;最後の頼みの網「ラストホープ」 ほか)
第2章 人間・福島孝徳(「神の子」?いいえ、ただの不良でした―ブラック・ジャックの生い立ち;闘争世代の青春 ほか)
第3章 世界一の手術師(鍵穴手術;常識の枠を超越した“手術の鬼” ほか)
第4章 日本医療界を改革せよ(拝啓 小泉総理大臣殿、敬意を込めてもの申します;新・臨床研修制度で本当に医師は育つのか ほか)
第5章 名医を探せ!(名医の条件;日本にも名医はたくさんいる ほか)

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2024年9月15日