鍵穴手術による治療 <1> 顔面けいれん(2) ※戦いつづける力 第3章【書籍抜粋】

東洋人に多い顔面けいれん

顔面神経は、顔の筋肉を動かして表情を作る、目を閉じる、頬を膨らませる、口角を引き締めるなど、表情筋をコントロールしています。そのためこの顔面神経が麻痺すると、おでこの筋肉と、目の上下と目のまわりの筋肉である眼輪筋がゆるんで眉が垂れたり、たれ目なのに目が閉じない、そして顔半分が麻痺して「ひょっとこ」のような顔になってしまいます(ベル麻痺)。

そもそも神経というのは電気のコードと同じようなつくりになっています。普通はミエリンという絶縁物質でおおわれていますが、血管に圧迫されることで絶縁物質がはがれ、神経繊維がショートしたような状態になります。断続的に顔がゆがんでピクピク引きつるのです。緊張するとけいれんが強くなるのは、表情筋がこわばって逆にけいれんを誘発するのです。なお、頭の形が前後に長い欧米人には三叉神経痛が多く、頭の形が丸くて前後に平らな東洋人(日本人、韓国人、中国人)には顔面けいれんが多いのが特徴です。 

けいれんが再発してしまう例

顔面けいれんも、三叉神経痛と同じく、顔面神経が高年齢と動脈硬化などでたわんだ前下小脳動脈や後下小脳動脈の血管ループで圧迫されることで起こります。米国ピッツバーグ大学のピーター・ジャネッタ教授は、1970年に三叉神経痛の原因と手術法を発表した後、顔面けいれんも同じような状態で起こっているのではないかと考え、実際に手術を行って見事にそれを証明しました。それまでは、やはり三叉神経痛と同じように、耳の後ろ下で末梢顔面神経に針を刺して神経を押しつぶすブロック療法やアルコール注入によって顔面神経を麻痺させる方法が行われてきたのです。しかし、いずれもけいれんが治まるのは一時的で、3か月から6か月でけいれんは再発し、ブロックによる顔面麻痺と重なって、前よりもよけい引きつれが激しくなります。ブロックによる麻痺が治まる頃にはけいれんが再発してしまうのです。何回かこのようなブロック治療を受けると、すさまじい顔面硬直とひどいゆがみの状態になってしまいます。強い引きつれとゆがみに加え、目元と口元が異常共同運動を起こし、まったく社会的に人前に出られなくなります。

近年、食中毒を起こすボツリヌス菌のA型結晶毒素(ボトックス)を注射する方法が行われています。これは1987年に世界に先駆けて私、福島が開発したものですが、残念ながら、当時厚生省の認可がおりず、今では米国製のボトックスが使用されています。しかし、ボトックス注射は痛いだけで不規則、不十分な筋肉の麻痺が生じ、しかも2~3か月で再発しますので、一時的な治療法になってしまいます。注射費用も高額です。

福島式顔面けいれんの手術法

顔面けいれんの治療は、顔面神経を圧迫している血管ループを顔面神経の根元から外側方向に転置移動しテフロンブリッジか、テフロン綿テープで固定します(参照ページに移動)。手術は皮切3センチ、三叉神経痛と同じ直径1センチの骨穴から鍵穴顕微鏡手術により行われます。手術時間は短く、1~2時間程度で終了し、入院も1週間程度ですみます(米国では入院期間2~3日です)。顔面神経も聴神経の近くを走っているので、顔面神経の手術の際にすぐ隣の聴神経に影響がないよう、手術中に聴覚電位をコンピュータモニターする装置を使用します。

三井記念病院で私、福島が開発した世界初のコンピュータモニターでは、聴力が安全圏内にあると緑色のランプが点り、軽快な楽しいモーツァルトの曲が流れます。しかし聴覚電位が半分ぐらいに下がってくるとランプが黄色になり、ベートーヴェンのピアノソナタに変わるのです。そして70%下がると、「もう危険です、やめなさい」という場面に至り、赤ランプでブザーが鳴り、大きな陰鬱な曲が流れる。そういう聴覚電位自動警告システムも私が作ったのです。1985年のことです。

そうやって合併症のリスクを下げるためにあらゆる努力を行った結果、聴力障害やふらつきが発生するリスクを1%以下まで減らすことができるようになったのです。

顔面けいれんの手術を受けた患者さんの感謝の声

顔面けいれんを患って、人に会うのが苦になっていた(60代・女性)

63歳頃より目の周りがピクピクし始めて気になり神経内科を受診し、投薬治療するもはかばかしくなくて、次に脳神経外科を受診しました。そこで薬を処方されましたが、2年ほどしても悪くなるばかりで、眼科を紹介されボトックスの注射を3か月に1回ぐらい打っていました。片側顔面けいれんが治らず、人の顔を見て話したり、人に会うのが苦になっていました。これからの人生が暗くなるのかなと落ち込んでいました。そんなときに佐賀新聞に載っていた福島孝徳先生の記事を読みました。福島先生による鍵穴式手術の記事を読み「これだ!」と直感し、いろいろ検討した結果、手術を受けることにしました。手術後3日ぐらいはとてもつらかったのですが、結果は良好で後は目に見えてよくなり、10日で退院することができました。

今は顔のことを気にせず人と接することができるようになり、佐賀新聞、福島先生に巡り合えたのは私にとって大変な幸運だったと感謝の気持ちでいっぱいです。そして、もし誰か同じ病気の人に出会ったら、ぜひ手術をすすめたいと思っています。本当にありがとうございました。感謝しています。

ボトックス注射では顔面けいれんが治まらず、思い切って手術を決意(70代・女性)

顔面けいれんの症状は、10年以上も前からありました。最初は、右目の周りがピクピクするだけだったので、そのうち治るかと思って放っておきました。しかしピクピクは年々ひどくなる一方で、とうとう目が塞がってしまうほどになったので、思い切って眼科に行ったのですが、そこで専門の開業医を紹介され、ボトックス注射をすすめられました。ボトックスの注射を受けて3、4か月は、確かにけいれんが治まりました。しかし、薬が効かなくなると再びピクピクが始まります。そうなるとまた注射を受けなければならないのですが、費用がかかる上に、瞼に3か所も注射針を刺されるのは本当に怖くて続けられず、そのままずるずるときてしまいました。

顔面けいれんは、顔が引きつれたり、目が塞がって見えにくくなったりするのでとてもつらいのですが、命に係わる病気ではないし、痛みがあるわけでもありませんでしたから。でもそのうちに、鼻がゆがみ、顔の相が変わってしまうくらいになって、ひどいときは目が完全に閉じてしまうこともありました。そんなときは、外へ出るのがちょっとつらかったですけど、私がもらった病気だから仕方がない、と諦めていました。当時は、手術で治るという話はまったく聞いたことがなかったんですね。

そんな折、滋賀県の湖東記念病院で慢性硬膜下血腫の緊急手術を受けて入院していたとき、「顔面けいれんは、手術で簡単に治るよ。専門の先生がいるから診てもらったらどうですか?」と言われたのです。それでも一度は、「いや、手術は怖いし、このままでいいです」とお断りしたんです。でも、「このまま放っておいたら、目が見えなくなってしまうよ。井上卓郎先生はプロだから、安心して任せて大丈夫ですよ」と言われ、迷った末に、手術を受けてみようかと思うようになりました。井上卓郎先生は、顔面神経の根本を血管が押さえているためにけいれんが起こるのだということを、3D画像を使って私にもわかるように丁寧に説明してくださいました。もちろん、頭にメスを入れることに不安はありましたが、近々湖東記念病院に来院される福島先生が手術に立ち会ってくださるとのことで、家族からも手術をすすめられ、思い切って手術していただくことを決めました。

慢性硬膜下血腫は術後の経過もよく、いったん退院。そして福島先生の来院に合わせて、翌月に顔面けいれんの手術を受けました。おかげさまで、手術後はけいれんがぴたっと治まり、楽になりました。鼻がゆがんでいたのもまっすぐになって、本当に手術を受けてよかったと思っています。傷口は35ミリと聞いていますが、痛みも違和感もまったくありません。

慢性硬膜下血腫は再発する可能性がゼロではないので、術後の定期的な検診が欠かせないと聞いていますが、顔面けいれんは1回の手術で完全に治ってしまいます。もし、不安に思っていらっしゃる方がいらっしゃるとしたら、手術は全身麻酔ですから、何もわからないうちに終わってしまいますよ、とお伝えしたいですね。


世界一の医療水準を誇るアメリカの医療関係者から「神の手を持つ男」(The Last Hope)と称賛される脳外科医Dr.福島孝徳は、今年2018年で医師生活50年を迎えた。現在でもアメリカ、ヨーロッパ、北欧、南米、アジア、ロシア、エジプトなど世界20カ国以上を飛びまわり、高難度手術を年間600人以上行っている。

「絶対にあきらめない、成し遂げる」という強い不屈の心、闘いつづける力はどこから来るのか——。

世界一と称賛される奇跡の技法「鍵穴手術」について、また、患者さんからの感謝の声、愛弟子たちの秘話も満載。

「私のところには“Dr.福島でなければ治せない”という難しい腫瘍や巨大脳動脈瘤などの複雑な病気の患者さんが、最後の望みをもって来てくださいます。それが私にできる手術であるなら、どんな患者さんでも受け入れます。そして、いつも患者さんに言います。“私が手術するんだから、もう大丈夫”と」 (福島孝徳)

◎脳外科に人生を捧げた私のミッション
◎75歳の今でも、その日に行った手術の復讐は怠らない
◎なぜ私が世界や日本各地を飛びまわるのか
◎私の手術を見学したい若手医師を歓迎します
◎世界一の手術師が生んだ奇跡の技法「鍵穴手術」
◎1円玉大の穴をあけ、顕微鏡で手術する
◎鍵穴手術による治療「顔面けいれん」「三叉神経痛」
◎私の後を継ぐ「次世代の脳外科医たち」の声
◎日本で福島孝徳が手術を行う病院一覧

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2024年1月20日