日本医療に必要な改革 第4章 日本の脳外科医に伝えたいこと(3)※神の手の提言【書籍抜粋】

ホルモン治療に異議を申す

▼ホルモン剤は生活の質を下げる

次に、ホルモン治療についてです。脳下垂体腺腫の治療で、内分泌医、神経内科医は、なぜホルモン剤を使うのでしょうか。

脳下垂体腫瘍は良性の腫瘍で、脳底部の真ん中にあるホルモンを分泌する脳下垂体という器官にできる腫瘍です。その腫瘍の影響で、ホルモンが異常に増えたり、逆に少なくなったりして、さまざまな症状が出ます。

この腫瘍は、手術で安全確実に摘出し全治させられる可能性が非常に高いのに、なぜか内分泌医や神経内科医は、患者さんに一生病院に通ってホルモン剤を服用し続ける治療を勧めます。一度ホルモン剤を使い始めたら、その患者さんは一生涯ホルモン剤のお世話にならなくてはなりません。今の時代、患者さんのQOL(quality of life — 生活の質)を無視した治療をすることは許されないのに、そういうことが平然と行われています。

例えば、乳汁分泌を促すプロラクチンという下垂体のホルモンがあります。妊娠や出産をしていなくても、血液中のプロラクチン値が高いとお乳が出てくるという異常な症状が出ます。そのプロラクチンを産生する脳下垂体の腺腫が結構多く、全脳下垂体腺腫の35%といわれています。特に女性に多い病気です。不妊症の10人に1人はこの腺腫が原因とも言われています。

その場合、内科の先生は、基本的に薬を使いたがり手術は原則として勧めていないので、プロラクチンを抑制するホルモンを使います。パーロデルやカバサールという薬なのですが、ものすごく効果がある人は60%、中等度効く人は20%といわれています。残りの20%は、薬が全然効かないか、ちょっとしか効かない薬剤耐性の腫瘍なのです。その腫瘍に薬を一度使ってしまうと、一生飲まなければならない。そしてかなり値段が高い。かなり高価な薬を毎日、一生、飲み続けて定期的にMRを撮影し、内科の先生に通わなければならないわけです。カバサールは週に2、3回でいいといいますが、薬を使っているとだんだん効かなくなるので、だんだん増えてくるのです。そしてホルモン剤を使い続けている間に、残った腫瘍から出血する可能性だってあるのです。

▼ホルモン剤を使うと腫瘍は取れなくなる

いちばん困るのが、ホルモン剤を一度使ってしまうと、腫瘍が変性して繊維化しベタベタくっついて、取れなくなってしまうことです。昨日も、ある大学で手術をして、腫瘍が取れなくてホルモン剤を使った、という患者さんの手術をしました。成長ホルモンが過剰生産されて起きる先端巨大症(手足や内臓の一部などが肥大する)が進行していて、私は見える範囲は苦労しつつ一応全部取りましたが、あれはホルモン剤を使っていなければ、簡単に取れるものでした。

私は脳下垂体腫瘍の手術は、開頭せず皮膚切開も全くしない、鼻の穴からピンポイントで腫瘍を摘出するという術式で行っています。鍵穴よりさらに小さい、ピンホールといっていますが、そんな小さい穴から大きい腫瘍も取ってしまいます。私なら手術は1~2時間で終了し、まず合併症はありません。鼻の穴からの術式で、1800人の実績があります。その1800人の手術を行って、私は重大な合併症がゼロです。手術ですからリスクがゼロとはいいませんが、今のところ合併症を引き起こした例は1例もありません。

90%の患者さんは1回のピンホール手術で異常ホルモンが全治できます。あとの10%は、何らかの状況で腫瘍が全部取れなかったりしたもので、そのときに初めてホルモン剤を少量使えばいいことなのです。

ホルモン剤を何年も飲み続けていたという患者さんの手術を行い、「あなた、もうこれで治ったから、5年たったらまたいらっしゃい、全治を再確認しますからね」というと、患者さんは初め信じられないという顔をします。そして、次に本当にうれしそうな表情に変わるのです。

▼内科の先生は手術のうまい医師を探すべき

脳下垂体腫瘍は、原則として最初の適応は手術です。それにガンマナイフをかける人もいますが、それは先ほども書いたように間違っています。そして手術もしないでホルモン剤を使うのも、私に言わせれば間違っています。

よほどのお年寄りや、先天性の心臓病などがあるなら別ですが、手術のリスクはほぼない。少なくとも私が手術すれば、手術の危険はほとんどないと言っていいでしょう。麻酔のリスクがちょっとでもあれば手術は考えますが、私が手術を決断した症例に、麻酔医か麻酔を断られたものは、まずないです。

内科の先生が心配するのは、手術で何か起こるのではないか、手術でホルモンが下がらないのではないかということでしょう。内科内分泌の先生が、なぜ患者を脳外科に送らないかというと、それはきっと全国にいる脳外科の先生を信用していないからです。どうせ患者さんを送っても全部取れない。どうせ送ってもホルモンは下がらないと。国内には私を含めて、脳下垂体手術の達人が数人、ちゃんといるのにです。

これは、日本の医療界のセクト主義の問題につながります。能力のない脳外科医が、たまたま自分のところに来た患者さんを囲い込み能力のない医療を行うように、内科医が、自分の患者さんを脳外科医に取られまいとして第2選択で行うべき治療をし続ける。医療は患者さんのためにあるはずなのに、自分たちのエゴのために患者さんが犠牲になっているということに、医師たちはどうして気づかないのでしょう。

ですから、内科の先生のお考え次第です。手術しても治らないではないかとおっしゃるなら、それは治せない脳外科医を選んでいるからです。内科の先生は、経鼻手術できっちり治す達人脳外科医を探してください。もし自分の大学、病院に治せる医師がいなかったら、ほかを探してください。脳下垂体手術のエキスパートは日本にも2、3人いますから、専門家を当たってください。1回の手術できっちり治せる脳外科医に紹介するのが、いちばん患者さんのためになるのです。

▼患者に治療の知識を与えるのが医師の使命

ただ、腫瘍が浸潤したりして、ホルモンが充分に下がらないのも確かにあります。脳下垂体腺腫の7%に硬いのがありますが、硬いのもなかなか全部は取れません。ただ、ほとんどの固まりは取れるので、90%、95%取れば、残りの5%に対してホルモン剤を使っても、わずかの量で済むという利点があります。

中には、最初から巨大な腺腫もあります。例えば先ほど書いた、成長ホルモンの巨人症や先端巨大症、末端肥大症は、これはかなり腫瘍が大きいのが多いのですが、それでも私なら、80%は手術で全治できます。ということは、私が大きな脳下垂体腫瘍の患者さんを100人手術したとして、少なくとも80人は1回の手術で全治、残り20人はホルモン剤を使用するにしても、少量ですむということです。そして腫瘍が少ししか残っていないので、効果が上がる。それでも何かがあったら、そこでサイバーナイフを使って治療する、という手順にすればいいのです。

手術1回で、しかも1時間か2時間の手術で全治の可能性が8割9割であれば、患者さんに手術を勧めるべきで、自分たちができないなら、そういうことができる達人のところへ紹介すべきです。これは医師の倫理と道徳です。

ただ、患者さんによっては絶対に手術が嫌だという方もいらっしゃいます。それならそれでいいし、私は無理に手術を勧めるわけではありません。ただそういう方にも、一生薬を飲み続けなければならないこと、一生内分泌科に通わなければならないこと、経過観察のために定期的にMRを撮らなければならないこと、薬をいったん3か月以上飲むと、もう腫瘍は変性して手術で取れなくなることなどを、きっちり話していただきたいです。

そして超ベテランの医師が手術をすれば、1回の手術で、腫瘍は全摘かほとんど取れる、ホルモンの全治はだいたい80~90%で、あなたが薬を飲まなければならない可能性は10~20%だ、と。

「1時間で済んで、なおかつ合併症のリスクが極めて低い手術」と、「一生薬を飲み続けなくてはならず、しかも出血のリスクや薬が効かなくなる危険性があるホルモン剤」のどちらを選ぶか、患者さんも今一度、考えていただきたいと思います。


”すべては患者さんのために”をモットーに世界中で活躍し、日本でも”神の手”として数々のメディアに登場する脳外科医・福島氏が、日本医療の数々の問題点に鋭く斬り込む!

第1章 こんな医師にあなたの命は救えるのか!?
第2章 能力のない医師が増えていく日本のシステム
第3章 日本は先進国最低レベルの医療費国家だ!
第4章 日本の脳外科医に伝えたいこと
第5章 賢い患者が名医に出会える!
おわりに すべてを患者さんのために

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2023年12月30日