日本医療に必要な改革 第4章 日本の脳外科医に伝えたいこと(2)※神の手の提言【書籍抜粋】

日本の定位的放射線治療は適応が問題

▼ガンマナイフとサイバーナイフ

ここからは、コンピューターを使った放射線治療について、日本の脳外科医に考え直していただきたい点をお伝えします。

今、定位的放射線治療では、ガンマナイフとサイバーナイフという機械が使われます。ガンマナイフというのは放射線の一種であるコバルトガンマ線を患部に当てて治療する機械で、約40年前にできました。半円形のドームの中に小さなコバルトの線源が201本配置されていて、コリメーターと呼ばれる重い金属製のヘルメットを患者さんの頭蓋骨にネジで固定し、コバルト線源から出るガンマ線を201本、集中的に患部に照射する、というものです。日本には今51台ほどあるでしょうか。4億円もする高価なものです。

またサイバーナイフとは7年ほど前に出来た機械で、6つの関節を持つ工業用ロボット(腕)に小型リニアック(X線を発生する装置)を搭載し、細く絞った放射線をコンピューター制御下に、患部に対していろいろな方向から200~300本照射するものです。患者さんは顔の形状にあったシェルと呼ばれるソフトマスクをかぶせるだけでよいので、負担も少ないものです。金額はガンマナイフと変わりません。

私が指摘したいのは、日本でもアメリカでも、どんな症例でも何でもかんでもガンマナイフを使う脳外科医がいるのですが、治療法としての選択としては不適切と言わざるを得ないケースが多く見受けられることです。

▼ガンマナイフは適応を考えるべき

ガンマナイフがもっとも向いているのは、脳の中の悪性腫瘍である転移性脳腫瘍、つまり身体のほかの部分に出来たガンの脳転移です。肺ガン、直腸ガン、肝臓ガン、大腸ガン、乳ガン、前立腺ガンなどの脳転移を治療するのに、ガンマナイフを使うのは適応があります。転移性脳腫瘍は、現在、よほど大きくない限り手術をしません。その他に手術で取りきれずに残ってしまった1~1.5センチの小さな残存脳腫瘍、脳動静脈奇形というのもありますが、せいぜいそのぐらいで、ガンマナイフの適応はごく限られています。

ところが良性の腫瘍でも、何でもかんでもガンマナイフを照射しようとする脳外科医がいます。冒頭でご紹介したように、私のところにはそのような無用な放射線治療によって、症状を悪化させた患者さんが本当にたくさんいらっしゃいます。放射線を当てると、病巣だけでなく、その周りにも放射線が当たるので、視力が下がったり、耳が聞こえなくなったり耳鳴りがしたり、ふらついたりという合併症があります。顔面麻痺、視力障害、複視、あと脳が腫れる脳腫張や、脳幹障害、めまい、耳鳴り、こういうことが起きるのをみな言わないのです。ガンマナイフを使う医師は、患者さんにそのことを説明しないのです。

▼ガンマナイフがかえって症状を悪化させる

例えば聴神経腫瘍は、良性なので放射線では消えません。1回の手術で腫瘍が取れて全治する病気なのに、意味なくガンマナイフを当てる医師がいます。「大きくならないからいい」といいますが、大きくなる人もたくさんいます。現実に大きくなったり顔面麻痺が起きたりして、私のところに「助けてください」と駆け込んでくる人は大勢います。顔面神経の麻痺はおおよそ10人に1人か2人の割合で出ます。顔面のしびれも多発しています。めまい、耳鳴りも悪化します。

また顔が発作的に痛む三叉神経痛も、ガンマナイフを照射してはいけない病気です。三叉神経痛は、顔が痛んで洗顔や食事も満足にできないという大変つらい病気ですが、大半が三叉神経に脳の血管が接触圧迫しているから起きるということがわかっています。つまり、手術で神経と血管を離して移動固定すれば問題ないのです。私は1~2時間で終わる、安全確実な鍵穴手術で全治させます。1回の手術の全治率は96%で、2300例の手術を行いました。極めて安全確実で、合併症はまずありません。

ところが、その三叉神経痛に対しても盛んにガンマナイフ治療が行われています。ガンマナイフを当てると、患者さんが辛い思いをしますし、照射した部分の神経がやけどしたときのような状態になってしまうのにです。しびれた上に、焼け付くような別の痛みが発生するのです。

また、コバルトは良性の髄膜腫(頭蓋骨の内側の硬膜にできる良性腫瘍)や、脳下垂体腺腫(ホルモン分泌を司る脳下垂体にできる良性腫瘍)や、聴神経腫瘍の神経鞘腫(神経を包むサヤにできる良性腫瘍)などを、悪性転化することがあります。放射線をかけたのに、かえって良性の腫瘍が悪性に変化してガンになってしまうという、これはもう大変な欠点があるのです。

それにもかかわらず、ガンマナイフによる治療が過剰宣伝され、ブームのようになっている医学界とは、いったいなんなのでしょうか。一度ガンマナイフを当てて症状が悪化したり合併症が起きたりしたら、もう元には戻らないのです。

▼維持費がかかるために使わざるを得ないガンマナイフ

ガンマナイフは40年前にできた機械で、日本でも51台ほどあります。病院は、ガンマナイフを置く設備に1億円かけ、機械を4億円で買っています。その上、ガンマナイフの201本のコバルトは半減期があるので、4、5年ごとに、1億円もかけてコバルトを換えなくてはいけない。とても経費がかかります。

ところが厚労省がガンマナイフの診療報酬点数を引き下げ、50万円しか払ってくれなくなったので、たくさんの患者さんに、何でもかんでもガンマナイフを使わなくてはならなくなったのでしょう。

しかし、ガンマナイフは患者さんの負担が大きく、その形状から使える部位も決まってきてしまうという欠点があります。

また、患者さんにコリメーターという重いヘルメットをつけるのですが、局所麻酔で頭蓋骨にネジで固定しなくてはなりません。例えば頭蓋底(頭蓋骨の下半分)にできた髄膜腫に放射線をかけるとなると、コリメーターを3回か4回換えて20発、30発照射しなくてはならないので、治療時間も4、5時間かかります。その間患者さんは頭にネジをつけなくてはならないので、みなさん痛がります。また半円になっていますから、耳の上にしか効果はなく、耳から下はできません。脳の表面にも使えないし、頭の大きい人にもできません。

良性の腫瘍を手術して少し残ったものにもガンマナイフをかける医師がいるのですが、これは普通は何もやらないで、様子を見るべきです。もしもふくれてきたら放射線治療を行うのですが、そのときには、私の経験ではサイバーナイフがいちばんなのです。

とにかく、ガンマナイフも使っていいけれども、適応を考えてほしいし、今は治療に全く痛みのない、最高のコンピューターを使ったサイバーナイフがあるということを私は言いたいのです。

▼サイバーナイフはメリットが大きい

申し上げているように放射線治療には、現在はサイバーナイフという、ドイツ製の精密ロボットを使ったコンピューターの放射線治療器があります。これは患者さんにはとても優しい進んだ機械で、超精密で正確です。

サイバーナイフは患者さんの顔の形状に合ったマスクを作成して治療を行うので、顔にもソフトですし、どんな部位にも使用できます。ロボットが患者さんの周囲を自在に動いて、耳から下も、頭蓋底でも、頭頸部でも、もちろん頭の大きさも問わず、さまざまな方向、ポイントに対して照射することが出来ます。患部の形状に合わせて選択的に、放射線を正確に照射することが出来るようになりました。

むりやりヘルメットを固定しなくても、患者さんが少し動いたとしても、コンピューターで患部を追跡し補正できます。患部にしっかりと照射でき、それ以外のところには副作用をおさえられるようになっています。

いちばんの適応は転移性脳腫瘍、悪性腫瘍、脳動静脈奇形ですが、サイバーナイフはガンマナイフに比べてはるかに適応が多いのです。特にサイバーナイフは、頭頸部のガンにものすごい威力を発揮します。全部ではありませんが、今まで良くならなかったものにも効果が出ています。

ガンマナイフでできることは、すべてサイバーナイフでできます。またガンマナイフは1回しか治療が行えませんが、サイバーナイフの場合には、2回、3回、4回と分けて行えます。また、例えば視神経などの大事な神経は、外すよう指示すればコンピューターが外します。

サイバーナイフ

サイバーナイフ

▼放射線は無用な使い方をしないでほしい

現時点では、患部に焦点を合わせる、コンピューターのフォーカストビームレディエーョン(focused beam radiation)はサイバーナイフがいちばん高性能です。患者さんに優しく、局所麻酔もネジもいらず、危ない神経はコンピューターで避けられます。自由度があって、重いコリメーターを換える必要もありません。コバルトを換える必要もなく、維持費も安いのです。

もちろんガンマナイフも、広く普及して以来過去二十数年間の実績があります。ガンの脳転移や、深部の血管奇形には効果があります。ですからそれには使ってもいい。ただ無用な使いすぎはいけないということです。

繰り返しますがガンマナイフ、サイバーナイフともに、いちばんの適応は転移性脳腫瘍、ガンの脳転移です。それから、悪性腫瘍。それから何回も再発を繰り返して、手術が困難な症例。それからサイバーナイフの場合は、頭頸部のガンです。

良性の腫瘍は熟練した、たくさん経験のあるエキスパートの脳外科医により、1回の手できちんと全治させるべきで、ガンマナイフをかけて放射線後遺症が出たり、一生MRを撮り続けたりするような治療は勧められません。


”すべては患者さんのために”をモットーに世界中で活躍し、日本でも”神の手”として数々のメディアに登場する脳外科医・福島氏が、日本医療の数々の問題点に鋭く斬り込む!

第1章 こんな医師にあなたの命は救えるのか!?
第2章 能力のない医師が増えていく日本のシステム
第3章 日本は先進国最低レベルの医療費国家だ!
第4章 日本の脳外科医に伝えたいこと
第5章 賢い患者が名医に出会える!
おわりに すべてを患者さんのために

Amazon

2023年12月15日