2014 2月イタリア ピサ手術記

1月30日から2月4日までのイタリア手術に同行した。

福島先生はここ10年に渡り、イタリア全土で高い評価を受け、複雑困難な手術症例の為に各地で手術を行ってきた。2010年にはイタリアで多くの患者の命を救ったとして、手術の功績を讃えられ前ローマ法王ベネディクト14世から感謝状を頂いている。

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近年はイタリア全土で待っている患者さん方を手術する為に、1年ほど前より年に4回ほどピサ大学関連のSan Rossore病院に定期的に赴き手術を行っている。

San rossore

今回の同行記は手術前の移動から驚かされた。

福島先生はアメリカでの手術を終え、まず手術機器、手術道具の打ち合わせのためにドイツ、フライブルグの工場へ向かった。フライブルグでは手術器械の視察、打ち合わせで新しい技術への提案、最先端の技術への臨床、手術面からのアドバイスを行っている。常に世界最高、最新、最善の治療を模索する為に、今まで培ってきた臨床での脳神経外科手術の知識を提供し、技術者、ヘッドクオーターと意見を交わし、移動の労力など惜しまない姿は常に医療の発展に貢献し続ける姿がそこにあった。

工場の視察の後はその日のうちにピサへの移動を予定していた。その翌日にはイタリア、ピサ大学附属のSan Rossore病院http://sanrossorecura.itでの手術が控えており、患者さんたちに会い診察をする為に、夜にはピサ入りをしなくてはならなかったからだ。

アメリカからドイツへ、打ち合わせをしたその日のうちにイタリア、ピサへの移動というタイトなスケジュールをこなし手術の日々を送るこのバイタリティーはどこから溢れてくるものなのか、いつも驚かされる。

しかし、今回もっと驚いた事は、フライブルグからPisaまでの移動を短く、疲れの無いようにするためにバチカン差し向けのプライベートジェットでピサからバーセル空港まで迎えが出ることになっていたのである。

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フライブルグから車でバーセル空港まで移動した後、空港でSan Rossore病院の主任Liberti先生とCaniglia先生と再会し、颯爽とプライベートジェットに乗り込み、待ち時間もなく、ピサへ向かい離陸した。バーセル空港からはピサまで1時間のフライトで夜の9時にはピサに到着した。

ジェットの中では疲れた様子も無く、早速手術の打ち合わせ、また解剖コースの開催等の打ち合わせを行い、次へ次へと前に進むその姿勢は長旅の移動時間の中でも変わらなかった。

今回も福島先生の噂を聞きつけ、イタリア全土から、著名な方の親戚や某大学教授の親戚など、このSan Rossore病院に手術を受けにきていた。

San Rossore病院での手術予定は日曜日を挟んで4日、手術は5件を行った。

1. Hearing preservation 2.5cm Acoustic neuroma (Retromastoid approach)
2. Posterior Fossa tentorial meningioma (Lateral suboccipital, infratentorial approach)
3. Petroclival meningioma (Combined petrosal approach)
4. Hearing preservation 1.5cm acoustic neuroma (Retromastoid approach)
5. Hearing preservation 1.8cm acoustic neuroma (Retromastoid approach)

初日に2件手術の予定であったが、前日大雨が降りPisaの街の川の水位が上昇し街に警戒警報が流れ、午前中は手術が行えなくなってしまった。

切り替えて午前中は手術機器navigation system、手術室のequipmentのオーナー、医療機器メーカーとの打ち合わせを行った。午後より手術スタートとなり、予定していたもう1件は日曜日に行うことになった。

手術は3件の聴力保存の手術は全て聴力を温存し腫瘍を摘出、術後の状態も良く術後早期に退院する事ができた。

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特に2.5cmの大きさで聴力を温存する事ができるのは非常に難しく、通常は腫瘍が大きくなると、聴神経を圧迫して、腫瘍との癒着が強くなるため、神経と腫瘍の位置関係や癒着などの条件がそろわないとなかなかできない物である。しかし、手術後には聴力が保たれているのを確認でき、患者さんも非常に満足されていた。

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そもそも聴力を担っている神経は蝸牛神経という感覚神経であるが、運動神経に比べると非常に弱い神経である。腫瘍摘出の際ほんの少しの力が加わってしまう事でも、聴力の機能は失われてしまうため、聴力保存の手術はたとえ小さい腫瘍でもかなり慎重を要する手術である。この神経は内耳道という非常に狭い空間に、一緒に顔面神経、上下前庭神経と4本の神経があり複雑な構造をしている。聴神経腫瘍はそのうちの前庭神経から発生する腫瘍であるため、腫瘍が大きくなると周囲の顔面神経や蝸牛神経を圧迫したり、巻き込んでしまう為に、腫瘍を摘出しながら、この蝸牛神経を温存させるこの手術は非常に繊細な技術を要するものなのである。

もちろん一番優先されることは顔面神経の機能を温存する事であるが、そこに非常に弱い蝸牛神経の機能、聴力を温存するということは、エキスパートのなせる技である。今回の症例は全てにおいて聴力温存手術を行う事ができ、患者、福島先生本人も満足の手術を行う事ができた。

今回一番大きな症例は3のPetroclival meningiomaであった。

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combined petrosal approachで開頭と行い、腫瘍摘出を行ったがトータルで12時間はかかった手術となった。腫瘍は周囲の神経、血管を巻き込み、脳幹への癒着、一部石灰化といった難しい症例であったが脳神経の4, 5, 6, 7, 8, 9, 10神経を術野から確認できる神経は全て確認し、温存する手術を行った。

こういった脳幹部への進展が多く、神経を巻き込んでしまっている腫瘍の摘出は、決して無理はせず、腫瘍脳裏側に隠れている神経、大事な構造物をできるだけ温存し、後遺症をいかに少なくするかということが手術の際の大切なポイントとなる。どれだけ腫瘍を摘出する事ができるか、これ以上は腫瘍摘出を進めては危なくなる。などの状況判断が非常に難しい手術である。この判断力と的確な腫瘍摘出は今までの膨大な手術経験、解剖の知識の上に成り立っているもので、これこそがエキスパートの技量、福島先生の真骨頂であると言って過言ではないだろう。

手術後患者は大事を取って数日麻酔下でICU管理が行われた。イタリアの麻酔科、ICU管理は非常に慎重で、大きな手術の後の術後管理は抜管せずに様子をみるのが通常とのことであった。2日間の管理の後、抜管を行い、軽度の脳神経の麻痺を認めたもののその後良い回復に向かい退院に向かっている。(この神経麻痺は通常2-3ヶ月、長い場合6ヶ月で回復する。術後の麻痺が起きてしまうのは、腫瘍が神経を巻き込んでいたため、腫瘍を摘出する際にどうしてもある程度の手術操作の影響が出てしまうのが通常である。場合によっていは完全に神経が巻き込まれていて、神経を温存できない場合もあるのが現状である。その場合には神経の吻合再建などの手段がとられる)

後頭蓋窩のtentorial meningiomaの症例は術後問題なく、術後1週間で退院となった。

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毎日の長時間の手術、更に日曜日の手術を受け入れてくれているSan Rossore病院のスタッフ、麻酔科の先生には本当に頭の下がる思いでいっぱいであった。イタリアのナースの方々も非常に熱心で、福島先生の要求に応えるように一生懸命手伝いをしていたこと、また病院オーナーも日曜日に病院に来ており、イタリアのスタッフのサポートの素晴らしさに感銘を受けたピサ手術同行記であった。

<補足>症例3の術後のMRI

2014年3月4日