最先端の手術に不可欠な福島オリジナル手術器具 ※「神の手のミッション福島孝徳」 第3章【書籍抜粋】

患者さんのために、少しでも性能のいい器具を使う

「脳外科手術では、弘法も筆を選ぶ」というのがDr.福島の口癖のひとつだ。

「最高の手術を行うためには、最先端のベストの手術器具が必要です。いつでも、少しでもいいものを求め、私の手術では、世界でいちばんいい器具を使っています。少しでも性能がよければ、それだけ患者さんが助かる可能性が高くなるのですから」

金子伸幸氏(府中恵仁会病院)は、「たとえば大豆をつまむのでも、割り箸と長い菜箸では、つまみやすさが違います。これがミクロン単位の手術となれば、道具にこだわるのは当然でしょう」と語る。

自ら数々の手術器具も開発した。少しでもいい器具を作るために、メーカーへのコンサルティングも無料で実施している。

針と糸、コットンに至るまで、改良の余地のあるものは見逃さない。

「昔は綿を使っていたのですが、今はデリコットという吸水性の高い超薄いものを使っています。これは生理用ナプキンや紙おむつからヒントを得たものです」

最先端の手術に不可欠な福島オリジナル手術器具 ※「神の手のミッション福島孝徳」 第3章【書籍抜粋】

手術用マスクの特許も持っている。息で顕微鏡のレンズがくもらないように、マスク上部に薄いビニールをつけて鼻にぴったり密着するマスクを開発したのだ。

Dr.福島の器具に対するこだわりを、根本暁央氏は次のように説明する。

「道具も1ミリ単位で作るほどの鋭い感性があるからこそ、道具も生きるのです。才能のない人が同じ道具を使っても、同じ手術ができるわけではありません。

『道具ばかり気にして』という人がいるかもしれませんが、5ミリの違いもわからない鈍感な人が1ミリ単位の繊細な手術をできるわけがありません。道具が少し違うだけで、すぐにわかるぐらい真剣に手術に集中しているのです。

福島先生がバイポーラ(高周波電流を発して組織を凝固させる器具)を使うと、まるで魔法の杖のように、軽やかに動きます。魔法使いの止血です。筆でなぞっているような感覚で、まるで手品を見ているようです。私もそんなふうに動かしたくて、ずいぶん研究しました」

数百種類の手術器具とともに病院を移動

Dr.福島は日本各地の病院を訪れて手術を行っているが、装置や器具の古さにあきれることも多い。「こんなものは使えない!」と旧式で不適切な器具を徹底的に排除している。一回の手術で使う器具は300種類を超えることもあり、対応する助手は気が抜けない。適切な器具が用意されていないと、

「この腫瘍は45度の鎌型ナイフがないと上がらない!」

「このマイクロ剝離子では、腫瘍までの距離が足りない!」

となり、スタッフが走り回ることになる。

最先端の手術に不可欠な福島オリジナル手術器具 ※「神の手のミッション福島孝徳」 第3章【書籍抜粋】

それほど手術器具にこだわるDr.福島だから、日本に帰国して各地の病院で手術を行うときは、複数のケースに収納された600種類の器具とともに移動している。

「脳外科の手術技術は日進月歩です。だから器具もそれに合わせて最先端のものが必要なのです」

 3年がかりで開発したマイクロ吸引管

そんなDr.福島と共同でマイクロ手術用の器具を開発してきたのがフジタ医科器械の高橋俊彰氏だ。高橋氏は、1980年以来、三井記念病院時代から福島の要望を受けては、現場の職人に伝えて実際の形にしてきた。

「最初のオーダーは『吸引管を作ってくれ』というものでした。0.1ミリ単位でサイズを指定され、中央の部分の湾曲が丸すぎると親指がひっかからないので少し角をつけるなど、細かく注文されました」

マイクロ吸引管は、手術中に血液や髄液を吸引して術部をきれいに保つための器具だ。術部が乾いてもいけないので、水をかけては吸引して細かく調整する。

手術は手袋をつけて行うために、指の感覚も通常と違うため、ぴったりと手になじむ器具でないと手術はスムーズに進まない。

「試作品を作るのに4~5ヶ月かかり、遅いと言われましたが、何もないところから作るのでそれぐらい時間がかかります。そうやって出来上がった試作品を、実際に使ってもらうと、さらに細かい要望が出ます。改めて図面を起こして職人に渡し、新たな試作品を作るという繰り返し。最終的に製品として形になるまで3年かかりました」

吸引管は使っているうちに摘出された組織が中に入り込み、管が詰まってくる。そこでマンドリンと呼ばれる細い針金を通して、中をきれいにしていく。吸引管を曲げて使ったとき、マンドリンが直線のままでは通すことができない。簡単に曲がるようにするために細めに作ると、管の詰まりを押し出す力が弱くなる。結局、職人のアイデアで、マンドリンをばね式にすることで、吸引管の角度に合わせて自在に曲がるようになった。

さらに、従来の吸引管では、吸い込みたくないところでも吸ってしまう。それを防ぐために、吸引圧を自動的に調節できる涙形の側孔をデザインした。

目の前に置かれたマイクロ吸引管は、何の変哲もない金属の棒に見えるが、そこに福島が手術現場で得たアイデアや、職人の工夫と技術が込められている。

また、くも膜を切開するためのマイクロ剪刀も、刃をどんどん薄くするようにオーダーされた。刃が薄ければ薄いほど、狭いところに入っていける。そして手元で回しても、刃先はぴたりと同じ箇所に当たるようにした。

また、高周波電流を発して組織を凝固させるバイポーラも、先端を15度、30度、45度と複数の角度で作った。まっすぐなままだと、鍵穴を開けた真下の患部しか使えないが、角度をつけることで、鍵穴から差し込んで奥に入り込めるからだ。 「福島先生は、『こういう場合はこれを使う』という明確なイメージを持っています。手術の助手が先生に付いていけないのは、同じイメージを持っていないからでしょう。バイポーラも角度でなく、番号で呼んだりするから、器械出し担当の人は大変だと思いますよ。そして、福島先生の手術は血を出さないことで知られています。『僕は裏側が見える』とおっしゃいますが、視界に入っていない血管の位置もすべて把握しているから、手術のレベルが高いのです」

最先端の手術に不可欠な福島オリジナル手術器具 ※「神の手のミッション福島孝徳」 第3章【書籍抜粋】

厳しい要求を受けて立った町工場の職人気質

三井記念病院の福島といえば、日夜を問わずに手術をこなし、弟子をびしびし鍛えていた時代だ。高橋氏は当時の、福島の手書きのメモを保管していたが、数字の単位はコンマ1ミリ単位で、細かい字でびっしりと要望が書かれている。

試作品が気に入らないと「これじゃあ、駄目だ」「なんだ、こんなの作って」と容赦なく怒られ、いつOKが出るか先が見えず、延々とダメ出しをされたこともあったという。妥協を許さないDr.福島に対応するには、大変な苦労があったのではないか?

「当時の私は入社後1年もたっていない新人で、脳外科で最初に担当したのが福島先生でした。だから、どれだけ厳しいことを言われても『ここまでのレベルが要求されるものなのだろう』と素直に聞くことができました。もっとベテランの担当者だったら先生に対して『それは無理ですよ』と言っていたかもしれません」

そして、昭和50年代は、町工場に昔ながらの腕のいい職人がいた時代だ。福島が厳しい要求を出せば出すほど『受けて立とう』という職人気質があった。

しかし、繊細な道具を作れる職人が現場から姿を消し、これまで培われてきた技術や製造力が失われつつあると高橋氏は嘆く

「町工場を子供に後を継がせるかというと、将来性を考えて別の道を勧めるところが多く、職人はどんどん減っています。また、こうした器具は大量生産できないので、コストも高くなります。

病院経営で事務側が強くなると、高い手術器具を購入することに難色を示します。日本製なら2万円、東欧やアジア製で4000円なら、安いほうでいいじゃないかということになります。

福島先生のように強く主張して納得のいく器具を集める医師は、今後は少なくなっていくのではないでしょうか」

Dr.福島が確立した手術の技術を次世代に継承していくためには、医療の現場だけでなく、医療費削減の影響、製造業の将来性まで含む、多くの課題が立ちはだかっている。

最先端の手術に不可欠な福島オリジナル手術器具 ※「神の手のミッション福島孝徳」 第3章【書籍抜粋】

「全力を尽くして患者さんを助けるのが、私の人生です」。
世界を飛び回り、ミクロン単位の超精密鍵穴手術を年間600件も手がけ、99%以上成功させているDr.福島は、「神の手」「ラストホープ(最後の切り札)」と呼ばれてきた。60代半ばとなった現在でも、手術にかけるエネルギーは衰えを知らない。
本書はDr.福島の常に進化している手術技術や、世界の若手医師の育成について、Dr.福島が救った数々の患者さんの体験談、日本医療の拠点となる、千葉県にオープンした塩田病院附属福島孝徳記念クリニックに賭ける情熱など、世界一の脳外科医の最新情報を掲載。
また、Dr.福島の原点となる、明治神宮の神職だった父に「人のために働きなさい」と育てられた幼少時代が語られており、すべてを患者さんのために捧げた男、福島孝徳のすべてがわかる最新刊となっている。

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2026年3月30日