プライベートは一切なし
Dr.福島はとにかく休まない。「1週間8日働く」と宣言し、土日、祭日も仕事で、夏休みなし、暮正月も関係ない。集中力を要求される手術の連続で、疲れがどんどん蓄積しそうな毎日だが、福島は「忙しくて疲れなんて感じている暇はない」と笑い飛ばす。
「私が手術しないと治らない患者さんがたくさん待っているのに、休むとかバカンスとか言っていられません。風邪なんかひいている暇もありません」
早朝から手術室に入り、数時間に及ぶ難手術を並行して数件手がけるので、終了がいつになるのかは読めない。深夜にホテルや自宅にたどりついても、まだやるべきことが残っている。その日に執刀した手術の症例を一人ひとり思い出して、図解入りの記録を作成する。「これは成功例」、「ここはこちらから攻めればよかった」などの解説入りで、福島自身の蓄積になるだけでなく、後進にとっても貴重な資料となる。どんなに遅くなろうとも研修医時代から続けてきた習慣だ。
その一方で、全世界から助けを求める手紙やファックス、メールも届く。それらに目を通すのは移動時間。手術の打ち合わせのため、あちこちの病院の担当医に連絡も取らないといけない。文字通り、息つく暇もない毎日だ。
先日、テレビ番組の企画で福島の脳のMRIを撮った。結果は、異常なし、健康そのもの。萎縮のない若い脳で、まるで30代の脳だった。
「私にもっと働けということなんでしょう」と福島は苦笑していた。
唯一の息抜きはゴルフとスキー
驚異的なスケジュールをこなすために、福島流の健康法はあるのではないか? 常人には真似のできない集中力の維持には特別なサプリメントでも摂取しているのではないか? そんな疑問を福島にぶつけてみた。
「健康法は何もやっていません。手術しかやっていません。運動もあまりしません。年1回、脳外科のウィンター・ミーティングでスキーをやるぐらいです。そして、ときどき、ゴルフ。ゴルフはやってみると、脳外科の手術に似ている面がありますね。サッカーや野球といったチームプレーではなく、個人の力のみで状況を読みながら進めていくところが。でも、ゴルフをやるのもせいぜい年に2、3回です。なにしろ持てる能力のすべてを、脳外科に捧げているのですから」
根本暁央氏は、アメリカで福島と一緒にゴルフをプレーしたことがある。
「とにかく、目の前のことに熱中する人です。素振りの練習から熱くなっていきます。ゴルフの道具にもこだわります。そして、うまくプレーできたときは子供のように『やった、バーディだ』と喜んでいます。でも、ゴルフ中に機嫌がよさそうだからと手術の質問をすると、すぐ仕事モードに戻ってしまいます。ゴルフウエアのままで研究室に直行して、解剖に取りかかったこともあります」
健康の秘訣は一生懸命仕事をすること
定期的に運動をしなくても、すべてにスピーディな日常生活で必要な運動量をこなしている。移動は小走り。たらたら歩くのが嫌い。エレベーターを使わず、階段を駆け上がる。福島の睡眠時間は3~4時間。連日3時間が続くとさすがにきつく、理想は4~5時間だそうだ。それ以上寝ても、1時間ごとに目が覚める。人間は眠ることによって疲労が回復し、睡眠不足はストレスを溜め、寿命を縮めてしまいそうだが、福島の考えはまったく逆だ。
「人間が一生に眠る時間は神様から決められているのです。私は短い時間しか眠らないから長生きすると思いますよ。そして、長生きする分、手術をするのです。健康の秘訣はどんどん働くこと。人間は、一生懸命仕事をしているときが一番健康なのです」
食生活もきわめてシンプル。原則は1日1食。朝は食べる暇がないので、お茶を一杯飲むだけ。昼も手術が続けば食事をとるゆとりはない。ジンジャーエールかお茶でのどの渇きを癒す。気が向けばキャンディやクッキーをつまむ。
メインは夕食。基本的にはベジタリアンで、ときどき肉を食べる。好物は蕎麦や寿司などの日本食だ。ゲストとの会食で本格的なディナーのときもあるが、日本から送られてきたカップめんや味噌汁、レトルト食品で済ませることも多い。傍目にはわびしく映るが、本人は十分ハッピーなのだという。
「患者さんには「3食しっかり食べて栄養をとりなさい」と指導していますが、自分は食生活をまったく気にしていません」と苦笑する。
髪も自分でカットする。床屋に行く時間がもったいないのだ。
「全力を尽くして患者さんを助けるのが、私の人生です」。
世界を飛び回り、ミクロン単位の超精密鍵穴手術を年間600件も手がけ、99%以上成功させているDr.福島は、「神の手」「ラストホープ(最後の切り札)」と呼ばれてきた。60代半ばとなった現在でも、手術にかけるエネルギーは衰えを知らない。
本書はDr.福島の常に進化している手術技術や、世界の若手医師の育成について、Dr.福島が救った数々の患者さんの体験談、日本医療の拠点となる、千葉県にオープンした塩田病院附属福島孝徳記念クリニックに賭ける情熱など、世界一の脳外科医の最新情報を掲載。
また、Dr.福島の原点となる、明治神宮の神職だった父に「人のために働きなさい」と育てられた幼少時代が語られており、すべてを患者さんのために捧げた男、福島孝徳のすべてがわかる最新刊となっている。