手術をすべきでない医師が手術をしている現実
▼世界の誰にも負けない技術はこうして身につけた
私のモットーは「毎日前進、常に進歩、常に改良」です。そのために、人の3倍は働いてきました。土曜、日曜も絶対休まず、1週間に8日働くようなものでしょうか。睡眠時間も少ないのですが、一生の睡眠時間の量はおよそ決まっているのだから、「少なく寝れば長生きできる」というのが私の持論です。
休暇を取る暇があったら世のために尽くしたいと思っているので、夏休みの時期、暮れ、正月は余計に働いています。大晦日も、毎年恒例の北九州での手術をしています。さすがに元旦は手術をさせてくれる病院がないので、父が神官を務めていた明治神宮にお参りに行きますが、2日からは通常業務です。土曜、日曜もありません。昔から土曜、日曜ほど一生懸命仕事をして、さらに人が寝ている間も仕事をして、もっともっと技術を高めようと努力してきました。
東大に入ったときから少し訓練すると先輩よりうまくできて、「脳外科の手術器具を持って生まれてきた」と言っていただいたほどもともと器用ではあったのですが、臨床の現場にこれだけ立っていたからこそ、私はみなさんから世界一の脳外科医と呼んでいただけるようになったのです。もちろん私自身も、18年前から拠点にしているアメリカではもちろんのこと、世界の誰にも負けない技術があると思っています。

▼医師に必要なのは「奉仕」「笑顔」「誠実」
脳外科医にとって大事なのは、医学知識と医療技術、そして判断力、なかでもいちばん大切なのが手術技能です。昔「医は仁術」と言ったように、患者さんに対する医療的な行為をすると同時に、医師は「医士」であるということを忘れてはいけないと思います。士は武士の士、つまり医師は侍のように、真剣勝負の世界で生きているという自覚が必要なのです。
そして、私は常々「医療は3Sである」と言っています。医師としての3Sとは
「サービス(service)」ー「奉仕」「気配り」
「スマイル(smile)」ー「笑顔」
「シンシア(sincere)」ー「誠実」
です。そのうえ、脳外科医であるなら、
「スピーディー(speedy)」ー「迅速」
「スキルフル(skilful)」ー「技量がある」
「スマート(smart)」ー「賢い」
でなくてはいけません。これが脳外科医の3Sです。
医師としての3Sと、脳外科医としての3Sを兼ね備えた脳外科医こそが、脳外科の名医と言えるでしょう。
ところが今の日本には、脳外科に限らず、医師としての3Sを持たない医師が存在しています。
もちろん、日夜必死で働いている良い医師もたくさんいます。特に勤務医たちは、厚生労働省の理不尽な超低医療費政策のために、心身ともに追い詰められた状態で患者さんのために尽くしています。私は日本で働く医療従事者には本当に同情していますし、今の崩壊した医療システムは根本から正さなくてはならないと考えています。
とはいえ、医師の道徳、倫理観の欠如が蔓延している現実も、私は目の当たりにしています。激しい言葉ですが、能力のない医師がたくさんいることは事実です。
私のもとには、「自分の実力以上のリスクの高い手術をする低レベルの脳外科医」に、死の一歩手前まで追いやられた患者さんが、全国から次々と救いを求めてやってきます。
▼経験不足の能力のない医師が行う「犯罪」としか言いようがない手術
実例をいくつかご紹介しましょう。
その患者さんは、結婚間近の29歳の女性でした。ふらついて耳が聞こえなくなり、耳鼻科に行ったところ突発性難聴と診断されたようですが、本当は脳腫瘍の一種である、聴神経腫瘍だったのです。それも直径6センチの超巨大聴神経腫瘍、つまり6センチの野球ボールみたいなものが頭に入っているのがわかったわけです。
聴神経腫瘍とは、聴神経を包むサヤから出る良性の腫瘍で、腫瘍ができたほうの耳が聞こえづらくなったり、めまいがおきたりする病気です。耳の後ろに小さな穴を開けて、顕微鏡を使って摘出術を行いますが、これには相当の技術と経験が必要です。腫瘍が、聴神経と並んで走っている顔面神経や脳幹表面と癒着していることが多く、もし腫瘍を取るときに顔面神経や脳幹を傷つけると、顔がゆがむ、ふらつくなどの後遺症が残るからです。
この患者さんは、結婚する前に全部腫瘍を取ってしまおうと考え、地元大学の教授が手術しました。ところがこの教授は、地域きってのワンマンな教授で、手術もうまくない人でした。手術中あちこちいじりまくり、脳が腫れてきたので、恐ろしいことに腫瘍を1割も取れないまま閉めたというのです。
患者さんは術後、寝たきりになり、気管切開をしました。ちょっと手足が動くくらいで、家族のことはわかるけれど、ご飯も食べられない、そういう状態が2年続いたそうです。
でもその教授は、他の医師を紹介することもしなかったそうです。
そして私のところに患者さんのお父さんがいらっしゃいました。私は「寝たきりで気管切開をしているというし、残念ですが私が手術してもお嬢さんの命は救えないと思います」と正直にお伝えしました。それに対しお父さんは「どうせ死ぬんだったら、危険を承知でやってください」とおっしゃる。それで私は手術を決意しました。腫瘍がくっついてベタベタしていて大変でしたが、8割くらい取りました。そうしたら、その寝たきりだったお嬢さんは、気管切開も取れて、立って歩けるようになったのです。
大きな聴神経腫瘍の手術は脳外科ではもっとも難しい治療なので、件の教授は、困難で大きい腫瘍の手術はやってはいけなかったのです。最初に聴神経腫瘍のエキスパートである他の熟練の医師を紹介すべきでした。
頭蓋咽頭腫という、ホルモンや記憶などを言る脳の視床下部・下垂体にできる脳離酒ができた48歳の患者さんは、その前に受けた手術が失敗し、私のところに助けを求めにいらっしゃいました。
頭蓋咽頭腫は、開頭して1回の手術で取りきらなくてはいけません。ところが、ある大学の脳外科医が開頭せずに、内視鏡手術をしてしまったのです。脳内に内視鏡を入れて吸引したのですが、そのときに、術中操作において脳腫瘍の一部を脳内に撒き散らしてしまい、そのあとに放射線を当てたというのです。これは全くめちゃくちゃな治療です。
私はきっちりと開頭し、ベタベタの癒着をはがして、腫瘍を全部取りました。合併症もありません。
あとはやはり有名大学で3回手術をして、寝たきりという患者さんを歩かせることもできました。先日も、ある教授が手術したもののほとんど取れず、ふらついて歩けなくなったという患者さんの腫瘍も全部取りました。手術して、腫瘍が取れなくて、放射線を当ててもう1回手術して、それでも取れなかったという患者さんも助けました。

7センチの腫瘍が増大し、麻痺になってしまってそのままだった沖縄の10歳の女の子の腫瘍も全部取りました。車イスに乗ってふらふらだったその子が今はすっかり元気で、元通り。部活もやっています。先日私の講演会に訪ねてきて、みなさんの前で感謝の言葉を言ってくれたのです。あれには本当に感激しました。
▼手術を好奇心から”試している”としか思えない
しかし、私でも残念ながら全治できなかった患者さんもいます。
とある医師が、5センチくらいの大きな聴神経腫瘍の手術をしました。その医師は脳神経外科の専門医なのですが、聴神経腫瘍の手術は年間1、2例くらいしか行っていませんから、これほど難易度の高い手術をする技術はまだ持っていませんでした。それなのに手術をしてしまったのです。
彼にその手術ができるわけがありません。自分でもまだ力量不足なのは重々わかっていながら、おそらく試しにやってみたかったのでしょう。
やってみたはいいが、腫瘍は取れません。そして、この医師は、何を勘違いしたのか、患部に放射線を照射してしまいました。しかも、普通のコバルト放射線を照射したのです。
あとで詳しくご説明しますが、もし万一放射線を当てるなら普通の放射線ではなく、ガンマナイフやサイバーナイフと呼ばれる特別な機器を使用しなくてはいけません。かつ、放射線治療は、細心の注意を払わないと腫瘍の状態をさらに悪くします。腫瘍がベタベタになって神経に癒着し、取れるものも取れなくなってしまうのです。
この医師は放射線で少し腫瘍が固まったと思い、もう一度腫瘍を取ろうと再手術したのですが結局何も取れませんでした。そして驚くことに取らないまま手術を終了し、そのままほかの専門医に紹介もせず、ほうっておいたのです。なんてひどい医師なのでしょう。
道徳心も倫理観のかけらも持ち合わせていません。本当に信じられません。

患者さんは、42歳の働き盛りでしたが、身体が不自由になったうえに仕事を失い、奥さんが面倒をみていました。働けないので生活に窮して、最後の望みということで私のところにいらっしゃいましたが、腫瘍がベタベタにされていて、もう私でも手に負えない状況でした。何とか8割方取り減圧しましたが、以前の手術でダメージを受けたふらつきが残り、職場復帰はかないませんでした。心が張り裂けそうでした。無謀な治療をした医師への怒りで爆発しそうでした。
「手術をした先生のことを知っています。私から厳重に抗議しておきます」と言ってあげるのが精一杯でした。
自分の実力以上の難しい手術を試し、失敗し、そのまま手を打たずに知らんふりしてしまう。こんなことは、私に言わせれば「犯罪」です。全くめちゃくちゃなことが、それも大学病院や大病院でそうした間違ったことが堂々と行われているのです。なぜそのようなひどい医師が多いのでしょう。
”すべては患者さんのために”をモットーに世界中で活躍し、日本でも”神の手”として数々のメディアに登場する脳外科医・福島氏が、日本医療の数々の問題点に鋭く斬り込む!
第1章 こんな医師にあなたの命は救えるのか!?
第2章 能力のない医師が増えていく日本のシステム
第3章 日本は先進国最低レベルの医療費国家だ!
第4章 日本の脳外科医に伝えたいこと
第5章 賢い患者が名医に出会える!
おわりに すべてを患者さんのために