
聴神経腫瘍とは
聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)は、脳腫瘍全体の約10%を占める良性脳腫瘍です。特に中高年の女性に多く見られますが、年齢や性別を問わず発症します。腫瘍は「聴神経」と呼ばれる第8脳神経(前庭神経と蝸牛神経)に発生し、耳の機能や平衡感覚に影響を及ぼします。
良性で転移はしないものの、放置すれば腫瘍は徐々に大きくなり、周囲の脳神経や脳幹を圧迫します。その結果、聴覚や平衡感覚だけでなく、顔面の動きや全身のバランスにも障害が出る恐れがあります。脳神経外科の中でも、特に手術の難易度が高い疾患の一つです。
Dr.福島孝徳は、一度の“鍵穴手術”による全治を目指す治療が望ましいとしています。
初期症状と進行
この腫瘍は、初期症状が軽く進行もゆるやかなため、発見が遅れやすい特徴があります。もっとも多い初発症状は日常生活の中でふと起こる軽いめまい発作で、立ち上がった瞬間や歩行中にふらつくことがあります。
発症から1〜2年経過すると耳鳴りが現れます。最も多いのは「キーン」という高音ですが、「ザー」「ゴー」「シュー」といった雑音型もあります。さらに進行すると、片耳の聴力低下が起こり、携帯電話の音声が聞き取りにくくなる、雑音下で会話が不明瞭になるなど生活への影響が出ます。
時期 | 主な症状 | 特徴 |
---|---|---|
発症初期 | めまい発作 | 日常生活の中でふらつく感覚が時折出現 |
1〜2年後 | 耳鳴り | 高音(キーン)が多いが、ザー・ゴー・シューなどの場合も |
進行期 | 片耳の聴力低下 | 携帯電話の声が聞き取りにくい、雑音下で会話が不明瞭 |
こうした症状は少しずつ進むため、本人が「年齢のせい」や「疲れのせい」と誤解し、受診が遅れるケースも少なくありません。
耳鼻科での診断が難しい理由
耳鳴りや聞きにくさを感じると、多くの人は耳鼻科を受診します。しかしこの時点で、中耳炎、突発性難聴、耳硬化症(otosclerosis)などと診断され、脳腫瘍の可能性が検討されない場合があります。
特に突発性難聴と診断された場合、耳鼻科ではステロイド治療が行われます。これにより一時的に症状が改善することがありますが、その効果が逆に腫瘍の存在を見落とす原因になることがあります。最大の問題は、詳細な検査を行わずに診断されるケースが少なくないことです。
診断の鍵となる検査
聴神経腫瘍を正確に診断するためには、ガドリニウム造影MRIが必須です。造影を行うことで微小な腫瘍まで見つけられます。一方、造影を行わないMRIでは診断精度が大きく落ち、造影MRIの半分以下にとどまります。
もし、片側に偏った耳鳴りや聞こえにくさ、めまい、ふらつき、目の焦点が合わないといった症状がある場合は、必ずガドリニウム造影MRIを受けてください。耳鼻科での治療で改善しない場合や、症状が片側に集中している場合は、専門の脳神経外科を受診することが重要です。
検査方法 | 特徴 |
---|---|
ガドリニウム造影MRI | 2〜3mmの微小腫瘍も発見可能 |
非造影MRI | 診断精度が造影MRIの半分以下 |
手術の難易度と専門医の必要性
聴神経腫瘍の手術は、1〜2cm程度の小さな腫瘍でも非常に難しく、ふらつき、運動失調、歩行障害、顔面神経麻痺などの合併症リスクがあります。
理想的には、小脳橋角部腫瘍の手術経験が500〜1,000例以上、聴神経腫瘍の手術経験が200〜300例以上ある脳神経外科頭蓋底手術の専門医が行うべきです。
2025年7月20日