脳疾患一覧

 

舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)

 

舌咽神経痛とは

顔の痛みの原因としては三叉神経痛が一般的ですが、稀な疾患の一つに舌咽神経痛があります。物を噛んだり飲み込んだりする時に、喉や舌の奥、耳の周囲に痛みが出てくる症状の事を言います。三叉神経痛の第3枝の痛みと間違えやすいですが、きちんとした診察で診断が可能です。

 

舌咽神経痛の原因

舌咽神経とは喉、舌の後ろ3分の一から耳にかけての感覚を担っている脳神経の一つです。神経は支配している各部位から神経線維が集まり1本の神経を形成し頭蓋外から頚静脈孔という小さな穴を通り頭蓋内に入り脳槽を通過して脳幹に入るという経路をたどります。

痛みの原因はその神経に何らかの強い圧迫が生じる事で神経に異常な信号が伝わり強い痛みとして感じるのです。何らかの圧迫の原因は、周囲を走行している血管が脳と神経の間に挟まり神経を圧迫している場合や、神経周囲に発生した腫瘍(類上皮腫や神経鞘腫、髄膜種など)が圧迫している事などがあります。

 

舌咽神経痛の診断

問診による、特徴的な症状診断が非常に重要な位置を占めます。
診断は1.5テスラまたは3テスラMRIによる舌咽神経周囲に走行する血管の存在。血管の舌咽神経との接触、圧迫所見。又は腫瘍の存在。これらは非常に細かい神経と血管であるため場合に寄っては明らかな血管や神経の圧迫が画像所見だけでは証明できない場合がある為、慎重に診断を行わなければなりません。

 

治療方法

血管の物理的な圧迫による症状なので、最も効果的な治療は外科的手術による、微小血管神経減圧術Microvascular transposition: MVT (またはMicrovascular decompression: MVD)という方法です。これは顔面痙攣や三叉神経痛と同じ治療法です。手術により神経を圧迫している血管を剥離して神経から剥がし、場所を移動する事により、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取るという手術方法です。根本的な治療になるので、最も効果的な治療になります。

投薬治療としてはカルバマゼピン(商品名テグレトール®)などの抗痙攣薬を用いた痛みを緩和させる治療も可能です。しかし、これは根本的な治療ではない為、痛みを完全にコントロールできない場合や、初め痛みを完全にコントロールできても、後々再発してしまったりする事があります。

カルバマゼピンとはてんかんのお薬です。神経の伝導を抑える作用がありますが時に副作用を起こす事があります。具体的な症状としては、眠気やふらつき、または薬が体に合わない場合感機能障害を起こすこともあります。一番気をつけなくてはならない症状は薬が体に合わず、粘膜を中心として全身に発疹、水ぶくれが生じ、更に進行してしまうと全身の臓器の機能が悪くなるStevens-Johnson 症候群を起こす事があります。これは飲み始めて少し経過してからも起こる可能性もあり、定期的な血液検査や診察、疑いのある場合はすぐに薬を中止しなくてはならないものですので、十分な注意も必要です。

 

福島式手術方法

皮膚の切開は約4センチメートルの小さな切開のみで行います。耳の後ろの約5センチ後方に緩いS字の切開を置きます。この位置は通常髪の毛の中に入っていますので、手術後傷が目立つ事はありません。頭蓋骨に約直径3センチメートルの穴を空け、後頭蓋窩という小脳があるスペースに入ります。小脳を傷つけないように避けて脳槽に入りそこを走る脳神経を確認し、周囲の血管と神経の関係を観察した後、舌咽神経を圧迫している血管を周囲組織から丁寧に剥がし血管が神経に当たらないように、場所を移動させます。この際できるだけ、血管と神経の間に物を挟まない事が重要です。後々神経周囲に瘢痕組織ができ余計に癒着を形成してしまい、再発することがあります。また再手術をする際、癒着が強く剥がす事ができなくなり根治ができなくなってしまう事があるからです。

我々はテフロンという素材を使い細い紐のような物を作り、血管を巻いてテフロンを他の部分に付ける(フィブリンのりという特殊なのりを使ってのり付けしてきます)という方法を行っております。これは私福島がこの30年の手術経験の元で確立した非常に侵襲の少なく、有効かつ安全な手術方法です。

 

手術中所見画像 皮膚切開薬4cm

福島式手術方法

現在まで舌咽神経痛の手術を約80例行ってきました。手術後全例において、皆様痛みから解放されております。

 

手術の危険性・合併症

○全身麻酔によるもの(麻酔薬、挿管等の手技によるもの)
○手術の際の体位によるもの(術後の腕のしびれや動かしにくさ、皮膚のトラブル)
○創部の問題(感染、糖尿病などによる傷の治りが悪く傷がうまくつかない)
○複視(周囲に外転神経(目を動かす神経)が走行しているため、損傷の危険性がある)
○聴力障害(聴神経(聴力を司っている神経)が走行しており聴力低下喪失を起こす事がある)
○小脳腫脹、梗塞、出血(大きな静脈洞という静脈の近くで手術をするため。または錐体静脈という静脈が三叉神経の近くを走行しており,場合に寄っては静脈が神経を圧迫している場合もある)
○嚥下障害(飲み込みが一時的に悪くなります。舌咽神経は非常に細いためここを触るだけでも一時的に飲み込みが悪くなる事がしばしば見受けられます)
○嗄声(声がかすれます。舌咽神経と並走して迷走神経が走っています。この神経も非常に細く、触っただけでも症状が出る事が多い神経です)

いずれも頻度は少ないものの、一定の確率で合併症は認められます。このうちこの手術が舌咽神経周囲の治療であるため、舌咽神経への直接アプローチせざるを得ないため、術後の嚥下障害によるむせ込みは最も起きやすい合併症です。多くの場合回復しますが、嚥下障害が強く出てしまった場合は一時的に気管切開が必要になる事も考えられます。

現在まで約80例の舌咽神経痛の手術を行ってきました。この疾患は非常に珍しいため、診断の時点で見逃されてしまっている事が往々にあります。きちんとした診断を付けてきちんとした治療で、今まで私が治療してきた患者方は手術後に非常に満足して帰ってくださっております。舌咽神経痛と診断された場合、または上に示したような症状を認めた場合には、ぜひご相談ください。