聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)

※「脳疾患一覧 聴神経腫瘍」、「Dr.福島が解説する 聴神経腫瘍」もあわせてご覧ください。

聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)とは?

脳神経外科医 福島孝徳

聴神経腫瘍は稀な脳腫瘍ではありません。全脳腫瘍の12%の頻度で発生します。無症状の小さな腫瘍を含めるともっと頻度があがります。10万人あたりだと、1年で3~4人ほど発症する確率ですので、東京都の人口の場合、年間で500人程の聴神経腫瘍が発生することになります。特に40~60才の熟年女性に多いと言われています。

聴神経腫瘍の発見は、以前は3㎝以上の大きな腫瘍で、聴力無しやバランス障害の症状が出るまで判らなかったのですが、今ではCTやMRIの検査が普及したために、軽い症状や無症状でも小さな腫瘍(1~2㎝)が発見される時代になっています。

脳腫瘍に加えて、脳卒中、頭部外傷、感染症、認知症、てんかん、パーキンソン病など、脳疾患は非常に多く、全国民の約15人に1人はなんらかの脳の病気にかかっていますので、赤ちゃんから高齢者まで毎年1回、全国民がMRI検査(外来や脳ドックで)を受けてください。早期発見、早期治療で全治することが可能です。

聴神経腫瘍の症状と検査について

全員ではありませんが、多くの患者さんで初発症状は、折にふれ時々おこる「めまい」「ふらつき」の発作です。内耳道には ①前庭神経(バランス)、②蝸牛神経(聴覚)、③顔面神経と 3本の神経が存在します。聴神経腫瘍は実は前庭神経の腫瘍なのです。従って初発症状が年数回の「めまい」「ふらつき」や「回転性めまい」発作になるのです。

そして1~3年経過すると「耳鳴り」の症状が出てきます。「ゴー」、「ザー」、「チチチ」などさまざまですが典型的な のは「キーン」という高音の耳鳴りです。そして次第に聴力が低下してきます。これら「めまい」「耳鳴り」「聴力低下」を聴神経腫瘍の三主徴(トライアッド)と言って特有な症状です。この時期を過ぎて腫瘍が2~3㎝に増大すると、顔面のシビレ(隣りの三叉神経圧迫による)や脳幹・小脳圧迫による運動失調や腫瘍側へ倒れやすいという症状が出てきます。さらに水頭症(脳室に水が滞まってくる)という状況になると治療は緊急を要します。

めまい、ふらつき、耳鳴り、聴力低下があっても、一般の町の耳鼻科医は、CT(造形)やMRIの検査をせず、「突発性難聴」とか「メニエール病」と診断することが多くあります。前述のような症状があれば直ちに造影・精密の1~2ミリスライスの高解像度MRIを受けましょう。CT装置もMRI装置も装置ごとに精密度や解像度(0.5~1~1.5~3テスラ)が異なります。ベストの検査は3テスラで1ミリスライスです。脳腫瘍のMRI検査では造形剤を用いないと写りにくいのです。

聴神経腫瘍のサイズについて

聴神経腫瘍の大きさ(サイズ)は、国ごとで分類が異なりますが、一般に、Small Size、Medium Size、Large Size、Giant Sizeに別れます。私、福島の分類は手術に最適されたもので次のように分類しています。 Small Size(3~14mm)、Medium Size(15~24mm)、Large Size(25~39mm)、Giant Size(40mm以上)。わずかな例外的症例(大きくても癒着なくツルツルとれてしまうタイプ)はありますが、一般に聴神経腫瘍は大きさが増大すると共に腫瘍出血や癒着が強くなり、より難しく合併症リスクも高くなります。

何度も強調しますが、聴神経腫瘍は発見次第、早期手術で全剔出・全治させるべき良性の腫瘍です。待つ理由は一切ありません。

聴覚検査について

聴力の検査は次のように3種類あります。

① 純音聴力検査

純音聴力検査は、健康診断などでも行われている一般的な検査です。イヤホンをつけて、片耳ずつビー、ブー、ピーという単純な音の識別をするものです。右耳の張力は○、左耳の張力は×で表され、グラフに表示されます。聴力は0~15dB低下までは正常。20~35dBは軽度低下、40~50 dBは中等度。それ以上は重度障害です。

② 言語聴力検査(SDSやWRとも呼ばれる)

言語聴力検査は、イヌ、ネコ、トリ、ツクエなどの言葉の識別能力です。聴力保存手術では、 Small Size → 60%以上、Medium Size → 70%以上、Large Size → 80%以上の言語識別能力がないと聴力温存は困難です。

③ コンピュータABR検査

コンピュータABR検査は、脳幹の聴覚伝搬能力を脳波で描出する検査です。非常に鋭敏で、ABR波形の1~5波までのうち、5波の振幅が重要です。手術中は ABRの5波を目安に腫瘍切除を行っていきます。

聴神経腫瘍の治療法について

高度のマイクロ手術技量を持ち、執刀症例500例以上を有する熟達した脳神経外科医に執刀してもらうことが最も重要です。またMRI(造影)検査で聴神経腫瘍の診断が確定したら、全国に15人いる、私、福島孝徳のトップ高弟たちのセカンドオピニオンを受けていただくことを強くお勧めします(15人の一番弟子たちは、近々に福島孝徳公式サイトでご紹介します)。

-経過観察はお勧めしない

24mm以下のSmall Size,Medium Sizeの腫瘍の場合、多くの医師は「数年、このまま経過観察しましょう」とアドバイスすることがありますが、それはお勧めしません。聴神経腫瘍は、良性腫瘍ではありますが、一般的に1年間で1~3mmずつ増大していきます。中には、1~2年間で2倍、3倍と急速成長するタイプのものあります。10mm内外の Small Sizeでは、2~3年間は成長しない腫瘍は時々ありますが、5~10年成長しないという腫瘍は見たことありません。つまり、「待つ」という事は、腫瘍が増大し、より癒着が強くなり、手術が難しくなって、合併症リスクが高くなるという不利益しかないのです。「待つ」や「観察する」ことを選択する根拠は1つもありません。

-ガンマナイフ治療は副作用に注意

「聴神経腫瘍」の全剔手術は小さくても非常に難しく、脳神経外科で最も困難な手術の一つにはいります。そのため、手術を施行するよりは、ボタンを押すだけの放射線治療を選択する医師が多いので困っています。特にヨーロッパから来た70年前の機械であるガンマナイフというのは注意が必要です。ガンマナイフというのは、広島の原爆と同じガンマ線というコバルトの放射線で神経を焼く治療法になります。技術を要する困難な手術より、ボタンを押すだけの治療のほうが、リスクも少ないので病院側もガンマナイフを進めることがあるのです。しかしながら、ガンマナイフには多くの副作用があり、決して安全な治療法ではありません

ガンマナイフはコンピュータ制御による放射線で腫瘍を焼くのですが、いくら制御しても、対象の腫瘍にぴったり付着している顔面神経(運動)、顔面知覚の三叉神経、脳幹、2本の小脳動脈にも同時にガンマ線があたって焼かれてしまいます。聴神経にはバランスの前庭神経と聴覚の蝸牛神経と2つあり、これにたくさんの放射線が当りますので、次のような症状がでます。

  1. めまい、ふらつき、バランス障害が悪化する。
  2. 聴覚は全く無くなる。
  3. 耳鳴りが増強する。
  4. 顔面がしびれる。
  5. 脳幹障害(ふらつき)も出る事あり。

私はガンマナイフを照射されて再発した聴神経腫瘍を100人以上診ていますが、放射線による完全顔面神経麻痺(ひょっとこのようになる)が 15人もいます。下位脳神経障害(嚥下障害、嗄声)が出た症例もあります。

-ガンマナイフ治療は、結局手術になる可能性が高い

ガンマナイフの治療経過は、最初の1~3年は、聴神経腫瘍は同じサイズのまま推移するのですが(縮小した腫瘍はみたことなし)、3~5年経過すると、再発増大してきます。そのために結局は手術になってしまいます。放射線で焼かれた腫瘍は、被膜が固く血管豊富となり、周囲にべたべた癒着して全剔出が困難となってしまいます。特にガンマナイフで焼かれた顔面神経は脆くなり、殆どの例で剥離不能となります。放射線治療で、良性の腫瘍が悪性化(がん化)して死亡する例もたくさん発表されています(聴神経腫瘍や髄膜腫も)。ガンマナイフを扱う医師は、患者さんに「ボタン押すだけ」という楽観的な説明が多く、重大な副作用もあるという事をしっかりと説明しない方々が多いので困っています。機械自体の操作は、ボタンを15秒間ほど押すことを数回だけなのですが、そこへ至るまでに患者さんは、3~4時間の間、3本のピンを頭ギリギリに埋める(結構痛いです)必要があります。

私はガンマナイフが製造されるStockholmのカロリンスカ・ノーベル研究所附属病院の客員教授を20年務めました。ピンで頭蓋内血種を発症した例、ガンマナイフで死亡した患者さん、さらにはガンマナイフで悪性がんになり死亡したという悲惨な患者さんを経験しています。このカロリンスカ病院では1992年~2008年まで、毎年3~4回手術を行い、10種類の福島開発頭蓋底手術法を指導しました。カロリンスカのMathiesen教授、Karlson教授、Kielstrom教授には、可能な限り、
① 聴神経腫瘍は安全確実なカギ穴手術で全剔・全治させること
② 三叉神経痛も福島式カギ穴手術で全治させること
を指導してきました。

重ねて強調します。良性の聴神経腫瘍に放射線(8種類ある)を当てるのは、殆どの例でやってはいけない治療法であり、実施するとしても、最後の、最終手段であるということです。聴神経腫瘍のすべてで正しい治療法とは、熟達した医師による低侵襲・安全確実な手術により、1回で全剔・全治することです。

ご相談がありましたら、福島孝徳公式Webサイトのお問い合わせよりご連絡ください。